目が覚めた。まだ寝惚けたままトイレに向かうと姉貴とすれちがった。
 「今日からメシいらねぇ」
 「え、なんで?」
 ドアを閉める。用を足して出ると姉貴は顔を洗っているところだった。俺は隣に立って歯磨き粉をチューブから出す。
 「外で食ってくる」
 歯ブラシを口に突っ込む。これでもう喋れないのでまともな返事はできなくなった。
 「なんでよ。いつまで?」
 「おうい、ひはらく」
 一応答えたが伝わらなかったらしい。姉貴はそのまま出て行き、俺は後を追うように顔を洗ってダイニングへ。朝飯を作っている背中にさっきと同じことを言う。
 「友達?それとも彼女でもできたの?」
 なんとも答えられずにいると、もとから期待していなかったのか姉貴は手を拭きながら振り向いて、皿を二枚テーブルに置いた。
 「別にいいけど。じゃあご飯欲しくなったら言ってね。じゃないと私のぶんしか買って来ないから」
 スクランブルエッグとレタス。椅子に座るとちょうどトースターがチンと鳴った。







 教室に入ると俺の席でエースと隣のナミが何やら話している。俺は朝っぱらから気が重くなりながらそこに近づいた。
 「…退けよ」
 二人はいっぺんにこちらを向いた。
 「昨日。どうだったのよ」
 「報告しろよ」
 そのプレッシャーは俺を見上げているくせに頭を押し潰されているような気すらした。重圧に耐えかねて、俺は鞄を下ろしながら呟いた。
 「行ったよ」
 二人はいっぺんに目を爛々とさせて違うことを言った。
 「告った?」
 「ヤった?」
 呆れながら首を振ると二人はつまらなそうな目を向ける。ただ面白がっているだけの奴らは気軽でいいもんだ。こっちは昨晩の会話なんてよく思い出せもしないのに。
 「一応、顔見知りにはなった…みてぇな気がする」
 「なにそれ」
 「店に来てもいいかって言ったらサービスするって」
 「やっぱ脈アリだな。さっさと口説け」
 椅子を占拠していたエースを押し退けて机に突っ伏す。
 元よりそのつもりだ。あの手首を掴んで抱き寄せて、あわよくば触れてもらえればいいのにな――そんな妄想をしながら眠りに誘われる。サンジと別れてから帰宅したのは午前一時を過ぎていた。普段の俺なら寝ている時間だ。一応見越して仮眠をとったのがまあ幸いしていたのだろう。
 一時間目を睡眠に費やすのは今日の夜のためだ。










 ドアは意外に軽く店内は少し騒がしい。かしこまったレストランというより小綺麗な大衆食堂みたいだ。夕飯時はもう過ぎていたがこの店の盛況さには関係ないらしい。
 案内された席につくとメニューと水。俺はちらりと店内を見回した。あの背中がいるのは厨房だろうか。
 「お決まりになりましたら――って、ん?」
 ウエイターが俺の顔をまじまじと見てきたので思わず睨み返すと相手の眉間にシワが寄った。
 「お前…」
 なんだよ、と言おうとしたらさっさと引っ込んでしまった。
 出来上がった料理を置くカウンターから厨房が見える。銀色ばかりの空間で白い連中が忙しく動いていた。不躾なウエイターはカウンター横の入り口で何か言っているようだ。
 「あ」
 金色。あれはサンジだ。
 こっちを見た。
 ずんずん近づいてくる。
 「来たんなら言えよ。アイツじゃなかったら気付かなかったところだ」
 あれは昨日サンジの隣にいたコックか。あまり覚えがないが、あのときもいい顔はしていなかった気がする。
 「なに食いたい?おれ様が作ってやるよ」
 コックが作ったのは手料理というのか?なんにせよ、嬉しい申し出だった。
 「…グラタン」
 「了解。ちょっと待ってろ」





← →