act.8




 だだっぴろい白い広間でサンジは立っていた。背後にはここしばらくの住処、というには窮屈な箱がある。檻の中の空気は自分の吐いたものがほとんどで丸くまろやかな毛布のようだったが、急に吸った外の空気はつきささるように鮮烈だった。
 錠は付けられていなかった。門番の指示通りに外に出ると思いも寄らぬ迎えが突っ立っていて、サンジは眉を顰めた。
 「…なんでお前が…」
 まさか、この男が、俺をわざわざ迎えにきた?
 長い暇にすらそんな妄想はしなかった。
 「辞令だ」
 「は?」
 これまた思いも寄らぬ言葉。
 事態を飲み込めていないサンジを置いてけぼりにしたまま、ゾロは勝手に言を進める。
 「一つ目はてめぇを迎えに行くこと」
 「他には」
 「俺もお前も、しばらく休職扱いだとよ」
 淡々と告げられた事実にサンジは眉をつり上げる。
 「はァ!? ぁンの野郎!約束が――」
 「ただし」
 腕を組んだまま瞬間沸騰したサンジを諌めるでもなく、やはり淡々と続けた。
 「特別任務だ。下で人間と同じ生活をし逐一状況を報告すること、ありのままに。」





 「つーかこの国の物価はおかしいだろ!なんで食い物がこんなに高ェんだ…」
 サンジは冷たい空気がでる箱を睨みつけた。
 電気が煌煌と明る棚が並ぶそこは所謂スーパーマーケット。ゾロは買い物カートに凭れ掛かりながら欠伸をする。
 「だからやめとけっつったのに」
 「だってよぉ、前から刺身食ってみたかったんだよ。お前だって日本酒飲みたかったろ?」
 「おう。前は無理だったからな」
 「買って帰ろうぜ」
 サンジはまた冷蔵棚に向き直る。
 冷たい空気に晒される指先は冷えてしまっただろうか、掴んで温めようかとゾロが懸想した頃、ちょうどサンジは振り向いた。
 「よし、今日は刺身にしよ!」
 にぃっと笑うサンジに上での張りつめた空気はない。
 「ならあの赤いのがいい」
 ゾロが指差すと笑顔はたちまち壊れた。
 「何で高いの選ぶんだよ!」





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