act.6
ぐちゅりと液体が潰れる音がする。熱を帯びる体を抱き込んで頬をなめらかな背中につけた。速い心臓の音がする。
抜いて、もう一度突き刺すとサンジは短く声を漏らした。
「痛ェか?」
そんなわけないとわかっている。それでも訊いた。
ふるふると金髪が揺れたので掴んだ腰を引き寄せる。
「ッあ!」
「どうだ?」
「んっ、は…あ、いっ、いい、すげ…ッ」
普段わかりづらいサンジが抱かれている時は比較的素直だと、ゾロは経験則で知っている。様子がおかしくともそれは同じだと確認し、動きを止めないまま顔を窺う。
「本当に、いいのかよ」
今度はこくこくと首が頷くがどこか納得できない。最近のサンジはどこか上の空で何を考えているのかいつも以上にわからないのだ。
後ろから抱えていた体を離してずるりと抜き取る。サンジは四肢を硬直させてこっちを振り向いた。
「え…なに」
熱くまとわりついていた肉がなくなると物足りなさにもどかしくなる。ゾロはまだ惚けているサンジの腕を引っ張りあげた。
「何でやめんだよ…怒ってんのか?」
それには答えず、向きを変えもう一度体勢をつくると了解もなしに再び突き刺した。ずぶりとはまりこむ感触にゾロの胴は震え、微かに声が漏れる。それでも別の感覚に気を取られているサンジには聞こえていないようだ。
「…っくぅ…テメッいきなりやめろ!」
「なあ」
真剣な様子を見せればサンジはすぐに気付く。
「なに気にしてんだ?」
「あぁ?…ッう、……バカ、やめっ」
「てめえ最近おかしいぞ」
「ッ…ああっあ、…っ」
喘ぐばかりのサンジに矢継ぎ早に質問をする。有無は言わせない。ゾロはただ追いつめたいだけなのだ。サンジの逃げ道をなくして白状するまで。泣いてしまえばいいとすら思う。堰を切ってこぼれだせばきっとゾロにもわかる答えが見えるはず。
サンジは涙目のまま、浮ついた息で言った。
「もうすぐ、分かれ道、だっ」
ゾロはそれでも動くのをやめなかった。
「だっ、から、一緒には」
その先は。ゾロが見えているのに知らぬフリをしていたものだ。
あと何回かで終わる。つまりそれは、あと何回かでサンジと一緒にはいられなくなる。
ふと現実が歪んだ気がした。二人でひとつの体を使っているわけでもないのに、意識が乖離するみたいだ。
「…っ、あ、ぞろ」
涙声を聞きたくなくて、ゾロは動くのを続けた。
公園のすぐ裏手でサンジは彼女を見下ろしていた。夕刻が近い空は赤くなり始めている。
彼女もまたサンジを見上げていた。
「おにいちゃん、どうしたの?迷子?」
無垢な瞳に映るサンジの顔は虚ろだった。ポケットの中に忍ばせた右手はゆっくりと柄を撫でる。その指先は固まってぎこちない。
「…そう、かもな」
『オイ何おしゃべりしてんだ、さっさと終わらせろ』
「ああ。そうだよな」
少女は首を傾げた。
サンジは右手を一度引きすぐさま前へ突き出した。
引き攣って力の入り損ねた手の平は銀色のフォークを取り落とし、それはコンクリートにぶつかって高い音を立てた。
「――ッ」
少女の瞳からはみるみるうちに涙があふれてくる。そのうちに甲高い悲鳴も、真っ赤な血もあふれてきた。
『バカ野郎!しくじりやがって』
「あ…嘘だ、おれ……」
俺は何を考えていた。任務以外のことを考えていたから、手が、勝手に。一度で殺さなければならないのに。手は震えている。これじゃあ金属も満足に持てなかったはず。都合よく無視したまま事を進めてこの様か。俺の怠慢で、失敗したのだ。
反射的にフォークを取り直し、もう一度振り上げた。
『遅ぇ!さっさと逃げるぞ!』
ハッとして顔をあげると公園から人が出てくるところだった。
やばい。ゾロの言う通りにしないと決定的に“しくじり”になってしまう。
辛うじて動いた頭の隅でサンジは計算をした。フォークをポケットの中にしまうと、手を濡らしたまま走りだした。
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