act.4
もう随分前だ。同じくらいの腕の奴がいると聞いた。ゾロはその話を大した興味もなく聞き流したが、すぐにそれを思い知った。
サンジと組めと辞令が下り、噂通りの輩であると知ることになったのだ。
お互い腕は認めていたが性格は合わず口論もしょっちゅう。それでも仕事の結果だけは出してきたから周囲は二人を放置した。
それは放置というより放任だったと周りが気付くには時間がかかった。歪みが大事になり決定的な失敗を起こすまで、上司ですら放置していたのだから。
こんな奴がいるから――そう思ったのは再び二人一緒の辞令を出された時だ。ゾロはサンジを、サンジはゾロを恨んだ。この男が居るせいで自分の評価が下がったのだ、と。
けれど今、二人は別のことを思っている。
こいつがいるから、俺はやっていけるのかもしれない。
不始末の責任に仰せつかった仕事は最低最悪の汚れ仕事、本来自分たちが行うようなものじゃない、要するに罰だ。
人間を抹消する、命を奪う、生を終わらせる。そこに作為があるのかはサンジやゾロが知ることではなく、何故彼らが消されるのかも知らない。ただ神に命じられたものを消さねばならない。
ノルマは1000。
そう言いつけられて、もうすぐ五年。本来の二人にとっては短い時間だが今の二人にはそうではない。
与えられた権限は限りなく少なく、二人は一つの人間になった。
滴る血が赤の水たまりになるのを呆然と眺めていた。貫いた手は同じ色に染まっている。
『サンジ、さっさと戻ってこい』
「はいはい…」
小さなアパートの扉を開けた。鍵は掛かっていなかった。
手をタオルで拭きながら道を歩く。茶色のタオルだから赤は目立たない。
「これで16か…」
ひとり呟く。大通りに出ると何人かの人と擦れ違ったがそのどれもがサンジに気を止める様子はない。いつものことだ、街の人間たちは誰にも興味が無い。
自分たちも人間たちに興味が無いのだから、好都合だ。
手近なコンビニのゴミ箱にタオルを捨てるとサンジは手を挙げてタクシーを止めた。素っ気なく目的地を告げると早々に窓の外に目を逸らす。ネオンがするすると通り過ぎて行った。運転手は何も言わない。これも好都合。
携帯を開いても新着メールは届いていなかった。
『明日は休みかもな』
だったらゆっくり眠れるか。サンジはそう思っていたが相方は違うことを考えていたらしい。
『帰ったら風呂入れてやるよ。血は臭ェんだろ?』
そのあとどうなるか、なんて決まっている。
『ゆっくりシようぜ』
「ああ…」
溜息のような小さな声に運転手は反応しない。
そのままタクシーは走り、大通りを一本入った住宅街で止まった。割増料金を大雑把に払うとサンジは釣りを拒否しておく。もしもどこかで面倒臭いことになっても少しの仁義があれば黙っていてくれるかもしれない、という保険だ。アテにならない、小銭程度の保険。そんなものでも今のサンジには大事だった。
もうすぐ積み上げてきた事が終わろうとしている。達成感、安堵、もちろん嬉しい。でも一抹の不安と寂しさが胸に吹く。いままで付き合っていたしがらみまで居なくなってしまうのだ。
サンジは煙草に火をつけた。マンションのエレベーターまでに煙は夜風に吹かれていく。
「…カウントダウンはもう始まってる…」
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