鳥籠の君
ガキの頃から気があう悪友にはこのところご執心の相手がいるらしい。連れていってもらった郭にいる女郎だという。美人だ、と奴は言うが本当のことはわからない。何せこの男の美的感覚は疑わしいところで、まるきり色気より食い気である。
だが逆に、そんな男が惚れる女の顔を一度見てみたくなった。だから嫌っているはずの郭についていったのだ。
お目当ての女郎は確かに美人だった。気の強そうな目で俺を見るなり、
「金のない男は相手にしたくないわね」
と言い放つような性格でなければ、だが。
付添人である旨を伝え別に部屋をとった。そこの小窓から見える庭は風情があって酒もうまい。
女郎屋でも案外落ち着けるものだなと思いながら一晩を過ごした。
ここへ来たのは三度目である。三度とも付き添いのように連れてこられ三度とも同じ部屋に通された。質素でこじんまりしているが、眺望の良い離れだからもしや待遇はいいほうなのかもしれない。だとしたら連れ合いの身分かあの女郎の差し金だろうか、と邪推する。
もう日も暮れているというのに夏の日差しの余韻がまだある。この暑さに買ってまで肌を触れ合わせるつもりは然程も起きない。というよりも俺は女にあまり興味がなかった。柔らかな体を組み敷くのは当然好きだが関係性を持つ気になれないのだ。
あの悪友――ルフィのように好む相手に時間を割くのならばまだいいが。一時の快楽よりも俺は自分が大事で、よくできた女に金も時間も費やす気はない。
辛口の酒はこの晩によく合った。暑さを忘れさせてくれる爽やかさが口内に広がる。杯を片手に、涼むために廊下へ出た。縁側に出ても良かったのだが三日も見れば少々飽きるというものだ。
「お帰りですか、旦那」
母屋に続く方に男が立っていた。気配はまだ若い、自分と同じくらいか。
「いや。涼んでいるだけだ。夜だというのにまだ暑い。」
「それで、遊女を放ったらかして、わざわざ廊下へ?」
男は濃色の着物だけが闇に溶け、肌の白色が余計に目立った。顔はよく見えないが茶化すような口調からすると、どうも優男らしいとだけ見当をつけて視線を逸らせた。虫の音が暗がりから聞こえている。
「友人の付き添いで来ただけだ、女は頼まなかった。…どうも郭遊びってのは好かねェ、俺は静かに酒を飲めりゃそれでいい」
「なら邪魔したようで…ごゆっくりなさってください」
頭を下げて男は引き返してゆく。あらためて視線を向ければ裸の足首の白さだけが目に焼き付いて、後ろ姿はそのまま溶けていった。
→2