恋愛の可能性
毎日、毎分、毎秒。いやこの瞬間だって俺たちは何かの選択をしながら生きている。数多の可能性から今を選び取っている。
だからこの現実も俺が選んだ可能性の果てなのだろう。
そう思ってみても折り合いがつかない。
こんなとき”運命”って言葉は簡単でいい。
俺は運命を――神の決める道筋なんか、信じないタチなのだけれど。
ここのところ、船は平和だ。というよりも退屈だった。
三日前に嵐が来たきり何もない。戦闘、といっても逃走劇だが、それすらも十日前に食糧調達に寄った小さな島の海域でこれまた小さな海軍船と接触したきり。
ゾロは戦闘員だ。つまり平時にこれといった仕事はない。
だから惰眠を貪ることを咎められる理由は特にない。しかし何が気に食わないのかコックに蹴られたため、今日も別の戦闘が行われている。
平和な甲板は物騒な二人のせいで物騒になっていた。
「あんたたち、毎日やってて飽きないわけ〜?ホント仲良しね」
「馬鹿抜かせ!」
「テメェ、ナミさんに馬鹿言うな!」
飛んできた脚を刀で受ける。加重が一気にかかるのを踏ん張って耐えた。ず、と後ろに構えた右足がずれたせいで体勢が悪くなり、その隙を埋めるように目の前の体を吹っ飛ばす。
「だああ!テッメー落ちたらどうすんだ力の加減くらいねェのかアホ剣士!」
「ピーピー騒ぐなアホコック」
ぎりぎりで手すりに着地したサンジは新しい煙草をつけた。
どうやら終わりらしい。
「なんだ、もう終わりか?」
「いつまでも寝腐れてる芝生に付き合ってるほど俺はヒマじゃないんでね」
「ケッ、だったら起こすな」
キッチンに消える背中は軽やかだ。
食後の運動といったところだろうか。おやつがルフィに食われた旨を伝えに来た、というのが来訪の正当な理由らしいからこれから夕食の準備なのだろう。
「楽しそうにしちゃって……まったく、いい迷惑だわ」
呆れたようなナミの声は聞かなかったことにした。
あれから、何かがおかしい。
サンジはおやつにアップルパイを作った。もちろん大飯食らいのクソ船長にはホールで、愛するレディたちと甘党の船医にはアイスクリームを添えて。他の男共にはおかわりを用意した。
呼びかけに九割のクルーは集合してくれたのだが、その場にいないひとり。そいつを呼びにいくのが何だか癪でサンジはあえて煙草をふかすだけに留めた。
それでぼーっとしていたら場にいない男のぶんは船長の胃に収まってしまい、それに腹を立て、じゃあ何でさっさと起こすなり届けるなりしなかったんだ俺のバカ、いやバカはゾロだ、という具合に憤りの矛先を向けたのがきっかけで。
サンジは甲板で寝ている阿呆の足を蹴った。
それで乱闘騒ぎを起こした。
これまで仲間になってから事あるごとに喧嘩をしてきた二人だが、何も毎日していたわけではない。それなのにここのところは毎日だ。
基本的に反りが合わないので水も性も、大体がムカつきあっている二人だがお互い認めあっているのは確かだ。と、少なくともサンジは思っている。
ゾロのことは嫌いじゃない。
それなのに最近あいつの顔をまともに見れない。
なるべく会いたくないと思って避ける。それなのに気になって見たくなる。近寄りたいのに近寄れない。
ヤマアラシのジレンマという話を思い出した。刺のついた体のせいで寒くて身を寄せようとしても針が刺さってしまうせいで近づけない。
まるっきり今の俺たちじゃねーか。
サンジは歯がみしたい気分だった。己の与り知らぬところで気持ちが進行している。知っているのだ。ゾロを何故正面から見れないのか。
それはサンジのよく知るところ。だからこそ考えたくないのが事実だった。
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