白身の揚げ物の上にソース。きれいに盛られた皿を壊すように食べ始めてもサンジはテーブルのそばに立っていた。
 どうも食べているのを見るのが好きなのか、サンジはメシを運びにくるついでに俺を眺める。店の忙しさによるらしく時間こそまちまちだが来るたびにそうしている。きっと今日も同じ。でもやけに静かだ。
 「うめェか」
 喋ったと思ったらこれだ。
 「おう」
 「……」
 答えても返事は無し。会話する気はないらしい。
 だったら放っといてとりあえず美味いメシを食おう。
 そう思ってナイフで切り分けた欠片をフォークで刺した、そのとき唐突に福音は降ってきた。



 「今日からは仕込みしてから帰る、だからテメェ一人で帰りな」
 手はそのままに、俺はゆっくりと見上げる。口にはまだ魚がいる。食べながらなので話を聞く体勢ではないが、サンジの場合は食事を中断するほうが怒りそうだ。
 中身をしっかりと胃に流し込んで、一息。
 帰り道がひとりきり、ということは答えはこうだ。
 「いつ会える?」
 尋ねるとサンジはまったく当然のように答える。
 「デートに誘いたいなら定休日の水曜。それ以外ならメールでも何でもしろ」
 デート。その単語を聞いた瞬間、今まで不思議なほど静かだった心臓がいきなりどごんと音を立てた。周りの音がわからなくなるほど大きい鼓動、血管をヘモグロビンが走り回るどくどくという音、吐息。それに笑えて――いや、嬉しくて楽しくて浮かれきって、俺は笑ってしまった。












 「今日から夕飯」
 姉貴にそう伝えてから、俺は約束通りバラティエには行っていない。メシを食いに行くのまで禁止されたわけじゃないが俺にもいろいろ事情があるのだ。財布や姉貴の晩飯や睡眠などなど。
 返事をもらった金曜日。土曜日は部活で筋トレ。日曜日は短期バイト。月曜はメール。火曜に返事が来て、水曜の朝。
 「今日、帰り遅くなる」
 「どっか行くの?」
 靴を履いているとわざわざ姉貴がダイニングから顔を出した。
 「最近どしたの。夜とか出掛けてるけど、悪いことはしないでよ?それともやっぱり彼女でもできた?」
 答えづらくて靴ひもを結ぶ手が止まった。しばらく考えたが良い答えは思いつかない。
 「…そのうち話す、と、思う…」
 確証は全くない。それでもいつかは話さなきゃいけない気がする。サンジと付き合う限りその悩みはつきまとうだろう。いつまでも後ろめたい気持ちで家族と向き合うのは嫌だ。
 「言えるようになったら言う」
 顔をあげたら姉貴は何ともない顔で腕を組んでいた。
 「ゾロが躊躇うなんて珍しいね。期待しとく」
 そしてそのまま引き上げてしまった。たぶん自分も出かける用意をするのだろう。
 「いってきます!」
 遠くから返事が聞こえた。





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