おくりもの+



 「んだよ…今度はテメエか」
 開いた扉を見て苦々しい気分になる。フランス野郎は不法侵入ときた。呼び鈴くらい鳴らせ。ノックくらいしろ。言おうと思ったが無駄なのでやめた。
 「ん?アルでも来た?」
 「さっき帰った」
 「そりゃあよかった」
 どっかりとソファの向かい側に腰を下ろすので立ち上がって紅茶を煎れ直さなければならなくなった。正直、面倒くさいが仕方ない。
 「ワインねーの?」
 「黙ってろ」
 とぽとぽとぽ、と赤い水が白磁のカップに注がれる。これは以前、菊がくれたものだ。白地に赤い幾何学模様と唐草が意匠されている伊万里焼。同じ柄のソーサーに置けば来客の用意は完成だ。
 トレイからローテーブルへ。かちゃりと音がする。
 「まあこれも赤いか……お、美味い」
 「何しに来たんだ?」
 「お前で遊びに」
 「テメエはホントに存在からしてふざけてんな」
 とっくに飲み終わったカップは色の筋だけを残している。それを持て余しながらトントンと縁を叩いた。
 「言っとくけど俺はスコーン食べないからな」
 「勧めてねえよ」
 どうせ食べないのはわかっている。この美食家サマは舌が肥えているのでカゴに入った物の品質以前の問題として味が合わないだろう。ファストフードを食ってればご機嫌なアメリカ人とは造りが違うのだ。
 優雅な仕草で茶を飲み干すと、フランスは徐に立ち上がりこちらのソファに身を沈めた。ちなみにソファは三人掛けだったが奴が居るのは真横だ。
 左側に他人の圧力を感じたと同時に体がそちらに傾ぐ。右の肩に回された腕で引き寄せられている。
 「ンだよ?」
 「アル、何しに来たの?」
 「は?」
 にこにこしているのでちょっと気持ち悪かった。両手を突っ張って顔を離そうとしても組まれた肩は解けない。
 「何って、……そういや何だったんだ?知らねえぞ」
 「あん?じゃあ何?密会?」
 そんな会談めいたことをした覚えはない。奴が屋敷に来てしたことと言えば。
 「土産にハンバーガー持ってきてスコーン食ってった」
 ただそれだけである。密談があったわけでも盟約を結んだわけでもない。人の家でティータイムを過ごしただけだ。
 「へえ、仲良しじゃん」
 「誰がだよ…ってか離れろ」
 ぐいと押しやるとやっと隙間ができた。香水の甘ったるい匂いがして距離を思い知る。
 「テメェこそ何しに来た」
 刺のある物言いになったが本心だ。用もないのに付き合わせていたい顔じゃない。
 苛ついたこちらとは関係なしに、相手は爽やかな笑顔つきで予想もしない台詞を放った。
 「薔薇のブーケが欲しいんだよ」
 「は?」
 「お前ガーデニングとか好きじゃん。ちっこいのでいいから作ってくんねーかな?綺麗なやつ」
 確かに、この屋敷の中庭には趣味が高じて中々の規模をほこる庭園ができあがっている。当然そこには薔薇も十数種類あった。
 「そりゃいいけどよ…」
 そういうわけで庭の薔薇は三本減り、こじんまりとした花束ができた。





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