SMOKING KILLS
IDカードを通すと壁にメニューが表示される。サンジは煙草を吸いながら指先を操作して新しい煙草を注文した。
健康を害するという理由から喫煙の自由が奪われて随分経つがニコチン中毒者は少なからず生息している。サンジもその一人で、生まれた時から煙草の自由売買は禁止されていたが悪い大人からそれを教わった。以来、幼い時から手放せずにいる。
買い求めるのにいちいち認証と承諾が要るのが最高のネックだが、客にそういうことを求めない小売店もある。少しの手間があればまあまあ快適な喫煙生活を送ることができる。
すー、……っはー。サンジは一服を心の底から楽しんだ。
吐く煙すら有害物質なのだから、当然周囲の人間は良い顔をしない。
「やめる気はねえのか」
「ねェな」
無茶を言わないでくれよ、とサンジは笑ってみせる。
後ろで腕組みをして見ていたゾロは苦々しく言った。
「俺まで道連れにすんな」
ベンダーを離れて街並を歩くと涼しげな風が吹いた。日差しで温められた空気がさぁっと流されていく。
それと一緒に煙も後ろに流れていった。またそれはゾロの肺にも入ってしまっただろう。そう思ってサンジは見えないように笑った。
「心中すんのも悪くねェだろ?」
サンジとゾロが生まれた時にはもう既に死は遠いものになっていた。死はいずれ訪れるもの、その瞬間はずっと向こう側の、あるかもわからないような――死は人々にとって現実にはなくなっていた。
もちろん二人も例外でない。この国に住むものはみんなそうだ。
諾々と生を過ごし、死が欲しければ自分で選ぶ。だからこの国の死亡率第一位は自殺だ。次は老衰。それ以外はぐっと数が減る。
きっとサンジはその少数に入るのだろう。肺が痛んで死ぬに違いない。
「病気じゃ同時にゃ死なねえんだぞ」
副流煙のほうが毒性が強い。比較的には本人よりも隣にいるゾロのほうが危険なのだがサンジは子供のころから吸っている。どちらが先に肺をやられるかなんてわかりはしないのだ。
「じゃあ後追いしよーぜ。テメェがいないのに生きてたってしょうがねェし」
サンジは振り返ってにこっと笑うと吸った煙をゾロに向かって吹いた。けほっと咳き込んだがそれを無視して口の中にも煙を入れた。それでゾロは決定的に咽せてしまいしばらくごほごほやっていたが、立ち直るとサンジの頭を思いっきりひっぱたいた。
「っテぇな!」
「アホか」
どちらも死に急いでいるわけではない。生きることに自主性のない人々が暮らす国。そんなところに暮らしていたって二人とも自分なりの生き方をしている、つもりだ。
「テメェが煙草やめりゃあいいんだ。そうすりゃ長く居られる」
ゾロはまったく平然とした顔で言った。当たり前のことを、と思っているに違いない。そう思ってサンジはちょっと照れた。
「………じゃあやめよっかなタバコ……プロポーズされちまったし…」
そんなつもりは無かったのだが、そう言われればそうかと思いゾロは黙ってサンジの手を引いた。少しよろけて煙草の灰が落ちる。ぱらりと散ったそれに構うつもりはない。
死ぬだの生きるだの、些細な事だ。ゾロはサンジや多くの人間と違って、生死に鈍感になったつもりはない。だからサンジの考えは解らない。
ただサンジは口ほど本心はそのことを重大視していない。それは知っていた。
煙草ごときが重大な死の手段に成り得る世界でも、二人はそれなりに生きているのだ。
「男同士っつうのも歓迎されないがな」
「ヘビースモーカーよりは歓迎してくれるんじゃねェの」
サンジは空に向かって盛大に煙を吐いてみせゾロと一緒に笑った。
書いた日090307 近未来、的な?