[ゾロの実態]



 実はサンジとゾロが初めて会ってから三ヶ月近く経つなかでまともな会話をしたことは数えるほどしかない。それも初対面から一ヶ月半後、彼と彼女が別れてからの話だ。それまでは会うことも無かったしサンジはナミの無二の友人だという男を敵視すらしていたので余り良い印象はなかった。正直言って忘れかけていたといってもいい。
 とにかく、別れた二人が恋人ではなく普通の友人付き合いをするようになってナミがゾロを一緒に誘うようなことが増えた。サンジとしては二人っきりだと浮かれてしまうかもしれない自分にはいい緩衝剤だと思うところがあって最初は了承したのだが。
 今では当たり前のようにゾロが店に来たらわざわざ顔をだすこともある。

 「ゾロは剣道の師範なのよ。合間にバイトしてるの」
 知らなかった。
 そこで初めてサンジは気がつく。案外、ゾロのことを何も知らない気がする。
 「ゾロって大学生かと思ってた」
 ナミの呆れたような笑いは軽やかでかわいいと思う。
 「今更すぎるわ…ゾロも言ってないなんて信じらんない」
 「そういや言ってなかったかもしんねェが、大学行ってそうにも見えないだろ」
 ゾロも呆れ顔である。
 「俺はお前と同い年だぞ?」
 いまいちピンとこなくて首を傾げてしまう。だから何だというのだろうか。
 「サンジくん。一般的に大学って二十二で卒業する人が多いのよ」
 「あ、そうだっけ」
 それでやっと納得がいく。浪人や留年しなければもう社会人というわけだから、ゾロも当然就職していて、それが剣道の師範なのだろう。

 サンジは実家がレストランで子供のころからコックになろうと決めていた。だから高校こそ行ったもののその大半の時間を料理に費やしていたし、当然のように進学ははなから頭に無かったので大学の仕組みも受験の苦労も知らない。成績は良かったから教師は進学も勧めてくれたがサンジの意思が変わることはなかった。
 「じゃあゾロは大学出て、師範なのか。でもそんな就職先あるんだな」
 見知らぬ世界のことは新鮮なものだ。サンジはこういった、誰かを通して自分とは違う視界を垣間みることが好きだった。だから付き合う女の子は職場になるべく遠い子がいい。可愛ければコックだろうがよろしい、というのが本音ではあるが。
 「昔から世話になってる先生の道場なんだ」
 「へえ。お前、剣道強いの?」
 「ああ」
 カップを見ながら答えるゾロは自信満々というよりそれが当然のようだ。不思議と納得できるのはゾロだからだろうか。
 「うちの大学に来れたのも剣道で特待取ったのよ」
 二人が同じ大学というのも知らなかったが、そこまでの成績に驚く。野球で言ったら甲子園、サッカーで言ったら国立というところか。剣道というスポーツに全く詳しくないサンジの想像力では量れないが見る限り彼は強そうな印象がある。
 「そりゃすげーな」
 そう言うとゾロは困ったような顔をした。見覚えのあるその反応にしばし逡巡したがサンジは茶化すつもりで言った。
 「――照れてんの?」
 にわかにゾロの顔色が変わって、同時に空気も変わったのを感じた。

 サンジは男が赤面するのを初めて見た。