花の名



 「これ、何て言うんだ?」
 指差した先には赤紫の花。フェンスに絡まっている蔦から何輪か咲いている。その隣のフェンスには同じ種類だろうか、色違いで白いものが咲いていた。
 「…わかんねえよ」
 ゾロは困ったように呟いた。
 「花屋のくせに」
 「まだ新米なんでな。知りたきゃロビンにでも聞けよ」
 にやにや笑って言うサンジを鬱陶しそうに見遣って、すたすたと歩いて行ってしまう。その後ろ姿は怒っているわけでも呆れているわけでもなく、からかわれすぎて付き合いきれないのだと言っていた。
 一ヶ月ほど前に花屋のバイトを始めたゾロに、サンジとナミは「似合わない」と散々にからかった。コンビニの制服も似合っていなかったがこの逞しい男に可憐な花はもっと似合っていなかったのだ。
 といってもサンジは全く似合わない、とは思っていない。
 ゾロには命の限られた切り花よりもずっしりと咲く樹木のほうがいい。力強くてちょっとやそっとじゃ倒れなさそうなやつがいい。落雷に遭ってもそのうち芽を出すような、しぶといやつが似合っている。
 そう言ったがゾロはやはり眉を顰めるだけだった。
 「知ってるか?食用の花ってあるんだぜ」
 「まあ、食えそうだよな」
 「違ェよ、食うための花。観賞用を食うんじゃねえの」
 「へえ…うまいのか?」
 サンジは銜えたままの煙草を口から離して、長く息を吐いた。
 エディブルフラワーは装飾として使われることが多く、味がどうこうというものではない。全体のアクセントとして使うことはあっても美味とは言い難いだろう。
 弱く首を振って、ゾロの期待を遮る。
 「食べたいか?」
 ずっと続いていた公園のフェンスが途切れて、その先の住宅地に入るともうコンクリートばかりだ。
 「いや。テメェが食わせたくねェならやめとく」
 食わせたくない、とは言っていない。けれどサンジが美味くないと言うものを好んで食うつもりはないのだろう。
 「俺のこと信用してんだなー」
 そんな些細なことで機嫌を良くする自分は相当お手軽だ。
 サンジはつい笑いながらゾロの手を握った。