[意外と知らない]



 てっきり一人で来るのだと思っていたが、意外なことにナミはゾロを連れてきた。

 顔を洗うくらいの時間しかなかったからみっともない姿を見せたのは失態だったが、まあ相手は男だからいいだろう、と適当に割り切った。これが女の子だったら居たたまれない。ナミには寝起きも見せたことがあるし部屋に泊めたこともあるので今更取り繕っても仕方ないというものだ。
 遅い朝。サンジは仕事が昼からなのでこの時間まで寝ていることは当たり前だが、この二人の予定はどうなっているのだろう。
 「今日はどしたの?」
 「ゾロに美味しい紅茶を飲ませてあげようと思って来たの」
 ナミの楽しそうな様子を見るとたとえ貴重な睡眠時間を削られようとも文句を言えないのがサンジだ。
 「せっかく土曜日で天気もいいのに、ゾロってばバイトもなくて暇だって言うから」
 「言ってねェだろ。お前が勝手に連れてきたんだ」
 「…今日、土曜日だっけ?」
 平日かと思っていた。
 「やだ、サンジ君。仕事しすぎよ」
 確かにサンジはほとんど休みをとらない。けれど彼女がいればそれなりに休んだり時間を作ったりする。最近、ナミと別れてから誰かと付き合ったりする気が起きないので自ずと行動が消極的になっていた。だから彼女もできない。つまり仕事ばかりしていて曜日感覚が薄くなってきていた。
 女の子は好きだけれど仕事と天秤にかけることはしない。サンジはコックをしてこその自分であり料理をしない自分を想像できないから、その上で煙草を吸い女の子を愛でているのだろうと思っている。
 料理を作ってあげるのが好きな人なら尚良い。だから朝っぱらから別れた彼女と知人の男に訪問されようが喫茶店代わりに扱われようが厭んだりしないのだ。
 「ナミさんは?最近忙しくないのかい」
 「前と変わんないわ。今日はたまたま休みなだけよ」
 話を促すつもりでゾロに視線を向けるとばちっと目があって、ゾロはやや下に俯く。
 「俺は昼から用がある」
 時計は十時半をさしている。

 ソーサーにカップを置く流れでナミは茶請けの焼き菓子をつまむ。香ばしくスティック状に揚げられたクッキーは勿論サンジのお手製だ。甘さ控えめのそれは昨晩のうちに下拵えが終わっていて、出かける前に揚げてから店への通勤路にある行きつけの花屋に差し入れようと思っていたものだった。サンジはそういった気まぐれなサプライズを好む。
 「何?デートか?」
 「ゾロにそんな相手いるわけないじゃない」
 ナミが肩を竦めるのでサンジは思わず問い返した。
 「何で?彼女いるんだっけ」
 サンジはゾロの容姿を認めていた。多少自信がある自分のルックスと比較しても何ら遜色がないとすら思っている。男を褒め讃える趣味はないので口には出さないが。
 女の子のほうから幾らでも寄ってきそうなものなのに。ナミが頭から否定するのは理解できなかった。
 「いねえし、デートでもねぇよ。稽古だ」
 「いねえんだ?つうか…稽古?」
 もはやサンジの頭には疑問符しか無い。