[遭遇]



 ナミを見送ってから食器を片付ける。プレート二枚、スープ皿、ガラスの器、ティーセット。順番に洗って水切りに立てかけていく。サンジの手にかかればそれはあっという間に処理されてしまう。
 手を拭いてから寝室へ。ラズベリーから連想した赤いシャツ、黒いスーツのスラックスを履いて、紺の千鳥格子のネクタイをきゅっと締める。あとはジャケットを羽織れば戦闘服の完成だ。
 子供の頃はコックコートを着ていたが女の子の目線を気にするようになった頃、次第に立ち振る舞いにも気を遣うようになった。ウエイターとしてフロアで接客することも料理を美味いように食わせるには必要な要素なのだと気付いたからだ。料理人自らがもてなす必要はない、と誰かは言うかもしれない。けれどサンジにとっては対象が美味いと言うならば何だってする。それが作法だと思っている。
 最後に姿見で髪をさっと整えて、愛用の革靴を履く。

 道を歩いていると民家のサクラが見えた。ふとゾロもこれを見たのだろうか、と思う。彼が通る道筋なんて知らないが、サンジは勝手にそう思い込むことにした。そのほうがロマンティックでいい。
 そうして空想ばかりしていて、やっと周りの景色に気付く。
 これはロビンの店を通るルートだ。そんなつもりはなかったのに無意識に足が向かっている。
 習慣とは恐ろしい。ここのところそんなに頻繁に通っていただろうか。そう苦笑しながらサンジは開いていたガラス戸を跨いだ。

 「ロビンちゃ――っあ、」

 そこには似つかわしくない後ろ姿があった。思い描いていたすらりとした背中ではなく、しっかりとした若い男の背中がすっくと立ち上がる。
 思わず出てしまったサンジの声に反応したのか、金属の筒に入れられた切り花を手にしたまま彼は振り向いた。
 「――あ?」
 同じ母音だが、それはサンジのものよりも心なしか尻上がりだ。同時に店員は首を傾げた。
 「…何、してんだよ」

 そう尋ねる声をサンジはよく知っている。
 「テメェこそココで何してんだよ」
 呆然としながら尋ね返すとゾロはきょとんとしたまま言った。
 「バイト」