[それぞれの居場所]
目が覚めて隣を探ったけれど、そこには誰もいない。熱源は自分だけ。冷たいシーツはさらりとサンジの指先を退けた。
昨晩、ゾロは朝からバイトがあると言って夜明け前に部屋を出ていった。いつものスニーカーを突っかけるようにして春の夜道を帰って行ったのだ。
「夜桜でも見ていくさ」
とか何とか言って。
その清々しいような口振りに一抹の寂しさを覚えたサンジは玄関口でゾロを引き止めた。
「あと五分」
とか寝惚けているゾロの台詞を真似て。
きっちり五分間だけサンジを抱き締めてくれたゾロはきっちりそのままドアを開いた。文句も言えず、サンジは閉まったドアに舌打ちをした。
ナミの言葉が正しいとすればゾロだってサンジと同じ気持ちのはずだ。一緒にいたい。触りたい。できれば同じ朝を迎えたい。そう思っているはずだが潔い男は執着を感じさせないようだ。
まったく、自分はいつからゾロに色恋の執着を求めるようになったのだろう。ついこの間――半月も前は互いの気持ちすら知らなかったくせに、味を覚えるのは早いものだ。料理の味を覚えるのもこのくらい早ければ楽なのだが、と天才肌ではないサンジは思う。
元々ゼフには大した才能が無いと言われ続けてきた。後を継がせる気もない、とも。それでもサンジはコックの仕事と諦めるつもりはなかった。ゼフの料理が好きだった、その背中を見ていたら料理を作ってみたくなった。初めて作ったものをゼフは認めてくれた。それで料理を作るコックになりたいと思った。子供の動機など単純なものだ。褒められて嬉しかった、それだけで一生の夢に成り得る。
けれどコックになりたいと口に出すとゼフは褒めてはくれなくなった。サンジは余計に意地になってゼフを認めさせてやると息巻いて、どんどん料理にのめり込んでいった。幾度となく失敗してはゼフにコックになるなんてやめちまえと怒鳴られたが、それでも諦めることはなかった。
サンジにとって、あの、初めて誰かに美味いと言われたことが、そのままコックとしての裏打ちなのだ。もう目的は褒めてもらうことじゃない、ただ喜んでもらうことなのだった。
だから今日も戦場へ行くのだ。
他人にとってはただの厨房でもサンジにとっては聖域であるように、誰しもに自分の居場所がある。それは時として恋人の隣よりも大事になることがある。
きっとゾロにはそれが剣道で、比較するのは間違っているのだろう。だから閉まったドアに舌打つくらいしかサンジに不満を漏らす方法はない。
顔を洗って着替えるとサンジはキッチンに立った。
ナミとの朝食を作らなくては。
寂しさ、執着、けれど彼には居場所がある、自分と同じように