[春(のろける)]



 「じゃあ明日からよろしくおねがいするわ」
 ロビンが告げると開きっぱなしのガラス扉から、明日からの従業員は出ていった。

 面接は成功だ。ロビンが大事にしているのは学歴や履歴書に乗っている特技なんかではない。じゃあ何かと問われれば、ただの勘だ。
 曖昧なものを頭から信じる質ではないが、たまには信じたっていいのだと以前教わったことがある。それはロビンの中に強烈に残っていて、ふと思い出すのだった。
 その教えによればこの勘は間違っていない。

 明日持っていく資料のファイルをまとめて以前使っていたブリーフケースに収めると、ロビンはガラス扉の内側のフックに札をかけた。まだ仕事は残っているから帰るわけにはいかないが、もう閉店時間は過ぎていた。closeと彫られた板をぶらさげておけば灯りがついていても問題はない。
 伝票の整理と片付けをしているとコツンと音がしてロビンは顔をあげた。
 「どうしたの?こんな時間に」
 「休みだから寝てたら夜になっちまって」
 長袖のTシャツにジーパンという、いつもの出勤スタイルよりもずっとラフな格好をしたサンジが立っていた。
 「これ、きれててね」
 サンジはヘビースモーカーだ。ランドセルを背負っていたころから吸っていたらしい。煙草が無くなるとじっとしてはいられなくなってしまう。
 コンビニで買ってきたのか、カートンをステンレス台の上に放り出して置きっぱなしになっている彼の定位置に座った。
 「彼と遊びに行ったのかと思っていたわ」
 今日は天気が良かった。春めいてきた陽気が心地良く、散歩にでも行けば心地良かっただろう。ロビンは店に居たのでそうもいかなかったのだが。
 「男同士でデートっつうのも、何すりゃいいんだか…」
 「家に籠っていたの?」
 「朝はあいつがだらだら寝てて、それ見てたら俺まで昼寝」
 「春眠暁を覚えず――かしら」
 「寝汚いんだよ、あの馬鹿」
 目だけが笑っている。口振りは呆れているのに本心はまるでそんな風ではないと、その目が語っていた。
 「ふふ、春なのね」
 動物たちのように人間だってこうも暖かくなれば恋の季節なのだ。