[ナミの立ち位置]



 美味しい紅茶が飲みたい。そう思いついたけれどこの時間ではすぐに望めそうもない。
 時計は十時をさしている。少し前なら真っ先にサンジに電話をかけたけれど今はそうもいかなくなった。新しい彼女――いや、彼氏は意外に面倒臭いのだ。復縁がまるでないとわかっていてもサンジを取ったら恨みのひとつでも買いそうだと嘆息する。
 その場は仕方なしに我慢して、昼時ゾロを呼び出してランチへ誘った。もちろんおごらせるためである。向こうが覚えているかどうかなんてナミには関係ない、取り付けた借金をきっちり返してもらえればいい。

 『行かねえ』
 思わぬ返事にナミは眉を顰めた。
 「なに、もうケンカ?」
 二人ならありそうなことだ。どちらも不器用で真っすぐだからすぐに突っかかる、付き合う前からくだらないことで諍いをしていることもあったのだ。
 『違えよ、稽古だ』
 「だったら“行けない”でしょ」
 すると電話の向こうで沈黙があって、ゾロがぼそりと呟いた。
 『先生に叱られちまったんだよ』
 不貞腐れたような声で言うもんだからナミは笑ってしまった。
 「子供みたい」
 お父さんに怒られて仏頂面のまま背中だけでしゅんとする。そんなゾロの子供の頃が目に浮かぶ。きっと今と同じようによくわからない顔をして内側だけで反省するのだ。
 「別にいいじゃない。サンジくんに会いに行くんじゃなくてバラティエでご飯食べるんだから」
 そう言えば引っかかるに違いない。
 『…飯だけな』
 「なら来てね」
 結局のところゾロはサンジについて我慢が利かない。
 よくナミとサンジが付き合っている時に黙っていられたものだ、と思ってから、今の自分と同じなのだと思い直した。
 隣が他ならぬ人間だから、まだいいのだった。