[腑抜け、叱られる]
「ちょっとゾロ君、話があります」
ゾロはその声を聞いた瞬間、背筋が伸びた。といっても普段から姿勢は悪くないので気持ちが伸びただけだ。
子供の頃から自分をよく知る初老の男性。道場の一角で、ゾロは自らの師匠であるその人の目の前に正座した。向こうの方では子供たちが練習をしている。
「ここのところ忙しそうですね」
ぱしんと竹刀のぶつかりあう音が響く。
「…いえ」
むしろ暇だからよく寝ています、とは言えない。最近サンジにかまけていて他のことが疎かになっているのをゾロは後ろめたく感じていた。バイトをしていないのは自己責任だが練習の時間まで減っている。この間は道場に来るのが遅れた。
「このところ、きみが楽しそうにしているのは知っています。けれどそれと練習を怠るのは話が違う。それはわかりますね?」
「はい」
「好きな人でもできましたか?」
ゾロは昔からこの人に隠し事ができたためしがない。黙っていたのに道場生とケンカした理由もばれていたし、戸棚にあった饅頭を食べたのも気付かれていた。ゾロが同性愛者だというのももちろん解っている。洞察眼の鋭さはやわらかな物腰とは真逆だ。
一瞬だけ言うのを躊躇ったが、ゾロははっきりと頷いた。
「俺が未熟なせいです」
付き合いを理由に鍛錬を怠ってはただの腑抜けだ。そうなるつもりはない。でも振り回されているのは事実。道場と練習で組み立てられていた生活を乱しているのは間違いなくサンジという要因のせいだ。
そしてそんな結果になるのは、ゾロが乱されるからだ。
未熟だ。恋に振り回されるなんて。
そんなゾロの考えなどお見通しのように柔和な笑みを浮かべてコウシロウは言う。
「それは鍛錬でどうにかなるものではありませんからねえ」