[ポジション]



 ナミに連れられて行ったマンションの一室、呼び鈴を押して出てきたのは慌てた顔をしたサンジだった。

 「ナミさんっ、ごめ、俺、寝てたから…!」
 えっと。全然準備とかしてなくて。つかまだ着替えてねェし…。
 しどろもどろになりながら焦った顔を隠せていない。事実ドアを開けているのは普段のようにきっちりした装いではなくどうみても部屋着であり、しかも金髪はぴょこぴょこと寝癖がついていた。ゾロは少し面食らう。なぜなら通常サンジには生活感が薄いからだ。
 「別にいいわよ、急に来たんだもの」
 ここに来る前、ナミは電話をした。
 もしもし、寝てた?今から行きたいんだけどいい?…あら、いいの?寝てたんでしょ?…じゃあお願いね。
 たったそれだけの会話だったから元から感心のなかったゾロは通話相手を予想しなかった。きっとサンジは女の頼みを断れなかったんだろう。でも自業自得だ――常日頃からあの、女に甘い性格が気に食わないゾロはざまあみろとすら思う。

 サンジの部屋は男一人暮らしのわりに片付いている印象だった。何度か来た事があるのであろうナミはさっさとソファに座り、続いてゾロも腰を落ち着けてみる。
 とはいえ心臓はまったく落ち着きがない。諌めることも諦めてしまう程だ。特別に想っている奴の個人的な空間はやっぱりただの部屋ではない。彼が毎日を過ごしているというだけでゾロにとってここは単純な意味に留まらなくなってしまう。しかもサンジは誰にでも見せる姿ではなく、おそらく限られた相手にしか見せないだろう無防備なままでいる。
 たとえこの状況がナミの差し金であろうとゾロは心臓がばくばく鳴るのを嬉しく思う。
 「紅茶でも淹れたいとこだけど、着替えてきたいからちょっと待ってて?」
 サンジはドアの向こうに消える。ナミはゆるく組んだ足をくみかえた。
 「お節介だった?」
 「…礼は言わねェな」
 間違いなくお節介だとは思ったがありがたいと思ったのも事実だ。それでもこんな騙まし討ちみたいな真似は不愉快だった。別に頼んじゃいない。
 ナミが自分達のことに気を配っているのは知っている。確かに自分とサンジを繋いでいるのはこの女だとゾロはわかっていた。
 楔だ。