[期待→勇気]
ほんの少し、期待した。
好きだと言われてキスされたとき。店に行くとわざわざフロアに来てくれること。自分に興味があるのか話をしようとしてくれるところ。自慢の料理を食いに来いと軽々と誘ってしまうあたり。ナミの言葉による疑惑を確認してまで理解しようとしてくれたこと。ゾロならば偏見など持たないと、特別扱いしたとき。
その期待は小さなものだけれどゾロの心の隅にどんどん降り積もっている。絶対にダメだと思っていたのに、涙を拭うサンジの手の優しさのせいで、もしや自分にチャンスがあるのかもしれないと、期待するのを間違っていると誰が思うだろう。
だから、ゾロは目の前に立ったサンジを抱きしめた。
「う、わ……ゾロ?」
確かに今、焦がれていた体が腕の中にある。煌めく存在を掴んだのが重量感と埋まる空間で感じる。
ゾロは甘く息を吐いた。
「脈がねえなら優しくすんな」
紡ぐ言葉すら甘い余韻ができた。ゾロはこんな気持ちになったことが今までない。眠っていた慈愛が全て溢れ返ってしまったように体を満たしていく。
サンジを片時も離したくない。けれど彼の幸せばかり願う。嫌がることはしたくないのに、抱きしめる腕を解こうとは思えない。
だから願うように言った。優しく断るくらいなら嫌悪してくれたほうが諦められるのだ。
「そりゃ、泣かれたら優しくしなきゃ男じゃねェだろ…」
対女用のマニュアルを持ち出すあたりサンジらしい。それとも彼は優しいから男にだってそれが適用されるのだろうか。ゾロにはわからなかった。
「じゃあ脈アリか」
もう涙は止まっている。彼の塊を実感したときから、光が掴めると期待したから泣くのはやめた。
手が届くなら奪えばいいのだ。ゾロは期待が好きじゃない。裏切られるとダメージが倍以上になるからだ。でももう遅い、してしまったなら結局痛いのだからだったら足掻くのが正しい。
もう好きだと伝えてしまったんだから断られればそれなりに痛いに決まってる。だったらつけあがってから斬り捨てられようが同じだ。
抱きしめられたままサンジはゾロの服を握った。抵抗しないで抱かれている、それがまたゾロに期待させる。
「お前のことは好きだけど、恋愛じゃねェよ?俺は、女の子が好きだ」
「知ってる」
わかりきってる答えだ。
「でもお前が男だからって応えられないとかじゃない」
顔をあげた気配がして、恐る恐る顔を向き合わせるとサンジは平然とした顔をしていた。けれど空気だけは困っているのがわかって胸のどこかが痛くなる。
「正直…俺には、どうしていいのかわかんねェ」
言葉がでなかった。謝ろうと思ったがすぐやめた。ゾロの気持ちは嘘じゃない。色恋沙汰に誰が悪いもあるもんかとゾロは開き直って自分を勇気づける。
だからかわりに艶やかな金髪を撫でた。