[呆れた]



 ピンポーンと呼び鈴が鳴っても出てこないからナミはその小さなボタンを連打してみる。
 しばらくしてばたばたと足音が聞こえた。

 「うっせーな…今開け――あれ?ナミさん」
 「おはよ」

 戸口に立つサンジの足下にはしっかりと見覚えのあるスニーカーが置かれている。黒にシルバーとゴールドのラインが入ったそれはナミがゾロにプレゼントしたものだ。去年の誕生日。そのときゾロは男と別れたばかりだった。確か三ヶ月くらい付き合っていたがへたくそだとか面倒とかいう適当な理由であっさり捨てたのだ。きっとその相手はゾロの誕生日も知らなかったに違いない。
 目の前の男も知っているかどうか。ゾロは自分と周囲に無頓着だ。
 サンジの誕生日なら眼の色変えるくせに。
 「どしたの?」
 面食らった顔をしているサンジににっこりと笑ってみる。
 「ゾロいるでしょ」
 「え」
 「ゾロ。昨日そのまま来てるでしょ」
 サンジを押し退けて室内に入る。リビングには当然誰もいない。
 「ちょっと、ゾロ!」
 少しだけ開いたままの寝室に踏み込むと高鼾が聞こえてくるのでナミはその塊を思いっきり叩いた。ばしんと音がするが布団は相変わらず薄ら上下するだけだ。
 「んもう!なんでアンタはいつまで経ってもこうなのよ!起きろバカ!」
 「ナ、ナミさん…」
 「いつ寝たの?これ」
 振り向くと眠そうなサンジが立っていた。その格好はどうみても裸だったからそのへんに落ちていたものを着ましたというようなかんじだったが、ナミはあえてそこには触れないでおいた。二人で寝ているのを承知で来たのだから。
 「うるせえなあ…」
 塊からにゅっと手が伸びた。裸の、できあがった筋肉の棒が空を掻いたと思ったらまた落ちた。そして眼をごしごし擦っている。
 本当にゾロの寝起きが悪いのは学生時代から変わらない。きっと子供のころも手を焼かせていたに違いない。
 「その前にあたしに謝りなさいよ。昨日のお金、誰が出したと思ってんの?」
 「んあ…いたのか、おまえ」
 「情報料はしっかり頂きますからね。来週ランチに付き合いなさいよ、もちろんおごり」
 のっそり起きて頭を掻き回すゾロは上半身、おそらく下半身も裸だったが気にする様子もない。無頓着の上に執着心もまったく置き忘れてきた男だ。ついでに常識も覚える気がない。
 ナミはそんなゾロとやっていけるのだから自分もその類いなのかもしれないと知っているが、思うに留めている。認めたりはしない。
 ゾロなんかと一緒にされたらたまんないわ。
 そう思っていないと諭すこともマトモにできやしない。

 おおともああともつかない調子で返すとゾロは大欠伸をしてきょろきょろと辺りを見回す。
 「あいつは?」
 結局ゾロはサンジにしか頓着していないのだから、諭しても無駄なのかもしれない。