[馬鹿な男]



 真性の馬鹿。
 怒濤の勢いでスターバックスを出ていった男を見遣りながら、ナミはひとりごちる。

 「言わないでゾロが気付くわけないのに、サンジくん、馬鹿ねえ」

 それにしても変な話だ。惚気るために呼び出されたのにその本人は勝手に帰ってひとり残されたナミだが意外と怒りは湧いてこなかった。どちらかと言うともうちょっと聞きたかったのにという残念な気持ちのほうが多い。
 二人の、男同士の関係というのはナミにとっては別次元でどうやっても想像しがたい。ゾロという友人のおかげでセックスの手順くらいは知っているが、感覚はどうしても無理である。だからこそ二人の友人がどう接しているのか少しだけ興味があったのだ。
 目の前のブラックコーヒーはそろそろ温い。
 きっとゾロはサンジの職場に乗り込むのだろう。今は昼過ぎの休みが終わって、夜の支度を始める頃だろうか。サンジが忙しくなり始めるにはまだ時間がある。来訪者があればさすがにあのオーナーも猶予くらいはくれるかもしれない。問題はゾロに裏口から用件を取り付けるという手順が踏めるか、だが。
 真っ正面、レストランのフロアでサンジを出せと言うに違いない。
 ナミはくすりと笑う。
 自分の誕生日ケーキを作って食べさせて、果ては自分をやってしまうのだからサンジという男は本当に馬鹿だ。