[余韻も醒める]



 ゾロは甘いものを飲みながら、それより甘い感覚に浸かっていた。
 ナミが目の前にいるというのにまだぼんやりと昨晩のことを思い出している。手が触れる感覚、キスの温度、サンジの声。ケーキの味も絶品だったがもちろんセックスもよかった。以前、サンジのベッドで一緒に眠った時はまるで童貞の中学生のようにどきどきしたが、今度はそれとはまた違った。ぬくもりに包まれるような優しい空気なのに一生ヤっていたいと思うくらい気持ち良かった。
 もっとはやく、サンジに触れれば良かった。

 「なんで一緒にいなかったの?あんた、今日ヒマなんでしょ?」
 「あいつが仕事」
 「待ってればよかったじゃない」
 ナミはブラックコーヒーを飲みながらさも当然の如く言う。
 「一人で居られるかよ」
 未だにサンジの家にいるのはどこか緊張するのだ。体も心もリラックスしているのに五感が緊張してしまう。体中の触覚が空気すらも捉え、嗅覚は彼を追う。普段は感じないところで空間を感じる。だから我知らず神経が強ばっている。
 サンジが居ればそれは余計なのだが、逆にそちらに気を取られるから話が違ってくる。
 「一人で居たら寂しい?」
 「まさか」
 子供じゃあるまいし。
 答えるとナミはにんまりと笑った。
 「じゃあ、一人で居たらシたくなっちゃう?」
 確かに、それはありそうだ。
 「そうだな、あいつが帰って来るころには出すもん無くなっちまう」
 「やぁだーゾロって下品」
 自分からふったくせにナミはくすくす笑った。

 女のこういうところはゾロには未知の物体のように思えた。ゾロにとって女は月みたいなもので、ころころ日に日に表情が変わるくせに手は届かなくて、裏側なんか永遠に見えない。そのあたりがどこかしっくりこないのだった。
 けれど一方ではそんなふわふわしたところが魅力的なのかもしれないし、確かに好ましい時もある。ナミと一緒にいるとゾロはそう感じることが多い。
 かたい体のほうが抱きしめて安心するのは変わらないが。

 「サンジくん、あんたに付き合いきれないから休み一日だけにしたんじゃない?」
 「付き合いきれない?」
 「あんまりがっついてないでしょ、サンジくんって」
 「そうか?」
 じゃあ俺はがっついているってことか。そう聞かずとも肯定されるのは目に見えている。しかしゾロからすればサンジががっついていない、とは言い切れないと思う。
 「あいつ、結構すごいぞ?」
 「じゃあ女の子には遠慮してるのかしら」
 それは大いにありそうな話だ。まったくあの男は女に甘すぎるのだから。
 「あんたに付き合いきれないってんじゃないなら、誕生日の翌朝くらい一緒に居ればいいのに」
 ゾロは思わずナミを見た。
 「いま、何つった?」
 「一緒に居ればいいのに?」
 「違え。その前だ」
 「誕生日の翌朝?」
 「誕生日!?」
 思わず大声を出してしまいナミに嗜められたがゾロは構わない。いや構っていられなかった。
 「あいつ昨日が誕生日だったのか?」
 「はあ?知らなかったの?」
 ゾロは頷けもしなかった。