[忘れてた]



 非常に、疲れた。

 「おいおいサンジどうしたよ、自慢の足腰がへたってるぞ?」
 「うるせェ」
 「おっ、さては昨日彼女とヤりすぎたか?バースデープレゼントは私よ、なーんて」

 そこから先は言わせなかった。サンジが横から蹴ったからだ。それでも相手がふっとばないあたり確かにサンジの足腰はへたっているらしい。
 そんな冷やかしはあながち外れていなかった。サンジの不調は疲労からきている。指摘の通り、彼女とヤりすぎたのだ。彼女は女ではなく男の彼氏である、そのくらいしか間違っていない。彼のやったことはある意味バースデープレゼントに相当したのだろうか。
 「どっちかっつーと、俺がプレゼントにされた」
 「なんだそりゃ」
 同僚のコックが不思議そうな顔を向けるもサンジは目の前のフライパンに集中しているので視線を向けることはない。
 「誕生日だって言うの忘れたんだよ」
 「はあ?」
 「サンジ…てめぇサバ並しか脳味噌ねえんだな…」
 「そうだな、んなことも忘れちまうなんて」
 「休み取った意味ねェな!」
 あはははは、と厨房中に笑われてつい大声でキレたら、今度はサンジが蹴られた。もちろん彼のただひとりの上司であるオーナー兼料理長に、だ。
 「うるせェぞチビナス」
 「うっせえのはテメェだろ」
 睨み合う二人にはお構い無しに厨房は完成した料理をオーダーに合わせてフロアに供給していく作業が続いている。
 サンジの私生活がどうあろうと今日もバラティエは平和なのである。
 たとえ今朝まで甘くて恥ずかしい空気に浸っていようが、朝方まで男と乳繰りあっていようが、初体験をいたそうが、サンジは仕事に出てコックの業務を果たしていた。