[涙と勘違い]



 突然立ち上がったゾロは、泣いていた。

 「――ゾロ?」
 しゃくりあげるでもなく喚くでもなく、ただ頬に零れた一筋だけがやけに光ってみえて、やっとサンジは動揺する。涙なんかとは程遠いはずの男が泣いていることに。
 涙目のままゾロはサンジを睨みつけた。涙と一緒に怒りが溢れ出ているような目をして。
 「テメェはどうしてそんな、勘違いさせるようなこと言うんだよ!」
 「勘違いって…」
 「そうだろ!?俺のこと好きでもねえくせに、振り回すな!」

 好き?
 彼女はサンジが、彼のことを好きなんだと言った。女しか目に入らないサンジが、気になって引き止めたくて一緒に居たくて知りたくて興味があって。手放したくないなんて思っている。
 『それなら、好きなのよ』
 聡明な美女はいつもサンジの疑問を晴らしてくれる。悩みを取り去ってくれる女神だ。その彼女にそう言われればそうなのだろうと思わざるを得ない。ロビンはサンジ以上にサンジを知っているからだ。
 だから、サンジはゾロが好きなんだろう。

 「…好きだよ」
 「違えだろ…!」

 ゾロが涙目でいるのが悲しかった。自分のやりかたが傷つけて泣かせたのがショックで、泣き止んでほしいのに。直角に座ったダイニングテーブルと、立っている彼と座ったままの自分。その距離は大きい。安易に手を伸ばせないほどだ。
 「テメェの好きは俺とは違うんだ。わかるだろ?」
 また、こぼれた。
 瞳を濡らすものがぱたりとテーブルの表面を叩いた。
 「俺は男が好きで、おまえに、惚れてるんだ」
 しばたたく睫毛が光っているのをサンジはどこか遠く思う。
 聞こえる言葉がずんと直に胸の中を突き刺したのがわかった。
 「言うつもりなんか無かったのに……好きっつったり優しくしてくんなよ!期待させんな!!」
 我慢できない。
 サンジは立ち上がった。ゾロが何か言う間を与えずにその頬を指の腹で拭う。熱い涙のあとを消すために。
 「バカ、泣くな」
 そう言ったらまばたきと共にサンジの指に涙が伝った。