[好きの意味]



 「はっ!?ちょ、待て、なに――」

 勝手知ったる何とやら。急に手を引かれたと思えばドアの閉まる音がした。自分の家の間取りくらいゾロよりわかってる。寝室だ。
 そのままベッドに放り出されて、少々のはずだった酔いのせいでくらりときた。
 「いきなり、何なんだよ!」
 電気をつけていないからゾロの表情が見えにくい。それでもちらりと光った瞳が切羽詰まっているのは何となく嗅ぎ取れた。
 これは欲情だ。
 どれが引き金だったかわからないが、こういうのは予想していたはずだ。恋人という関係になった以上、いつかのひとつに十分含まれていたはず。けれどサンジの脳は今の状況を処理しきれていない。
 立ったままでいるから見上げなければゾロが見えない。彼を見る自分の瞳に怯えが映っていることくらい自覚があるから、見せたくはないのに。声が出ない。だから見上げるくらいしかできなかった。

 「びびってんのは知ってる…でも我慢の限界だ」
 ゾロが覆い被さってきたせいで距離は一気に詰められた。もはや暗さも関係なくその顔の造作さえ見える。睫毛はコシがあって太い。その目と同じ深緑だ。
 吐息の温度さえ感じる。
 「ずっと我慢してた。自分で言ったくせに触るだけじゃ足りねえと思ってた」
 「ゾロ…」
 やっと出た声はか弱すぎてサンジは驚いた。これじゃあまるで、生娘だ。慌てて取り繕うようにゾロのシャツの端を握りしめた。それでもお互いの状況は変わらず、ゾロはサンジを見つめている。これ以上無いくらい真剣に、そして切羽詰まっていることを隠しもしないで。
 「今までだったらもうヤっちまってる。けど、お前がまだだって言うなら待とうと思ってた。……でももう、無理だ」
 サンジよりも厚い体がしがみついてきて思わず全身を強ばらせた。怯えではなく逃がさないと言わんばかりにしがみつかれた痛みでだ。ベッドがぎしりと音を立てる。
 それが少しだけ冷静にさせてくれた。
 サンジだってその可能性を考えなかったわけじゃない。同性に惚れたと言われたときから女の子だけしか眼中になかった世界が一変して男という項目が増えた。正確にはゾロという項目。彼と付き合うようになった今だってサンジの眼中には女の子とプラスαしかないわけだが、要するに、男ならゾロのみ、交渉をもつ対象になったのだ。
 それまで男同士のやり方なんて考えたこともなかった。サンジは人より線が細く見える。茶化されることもあるがそんな無礼な奴は片っ端から蹴り飛ばしてきた。彼の中身を知る人間は迂闊にそんなちょっかいをださない。つまり、サンジにとっては関係のない世界で、むしろ知りたくもないことだったのに。
 最近はそればかり考えている。
 ゾロとの関係性。いくらなんでも小学生ではないのだ。手を繋いで抱き合う、キスをする。それで恋人と言っていいのか。不和を感じても尻込みする気持ちがあるサンジは言い出せなかった。だからゾロが取り繕っていても欲求を持っているのは薄々感じていながら、それを見ないフリをしていた。
 逃げていた、それが遂にやってきただけなのだ。
 「――いいぜ。平気だよ」
 その芝生のような後ろ頭を掴むとサンジはそっと言う。
 「俺、ゾロのこと好きだからさ」
 今度の意味は間違っていない自信がある。