[トリガー]
「おい?どうした?」
固まって俯いてしまったサンジを訝しんでゾロは声をかけた。
ゾロとしては美味い料理と酒と、ついでにイレギュラーなケーキまでついて満腹になったもんだからすっかり上機嫌だ。今ならいきなり蹴られてもまあいいかと許せる気すらする。とはいえそれは予測であって短気なゾロが沸点を超えないはずがないのだが。
いくら惚れていようがムカつくときはムカつく。不思議なもんだがサンジには何も我慢できない。好きも愛しいも腹立たしさも悲しさも、全て。
「サンジ?」
そおっと手を伸ばしたら、金髪に触れた瞬間、肩が跳ねた。
「…」
一瞬だけ、嫌な想像をした。
ゾロは今までノンケを相手にしたことはない。そもそも色恋沙汰の経験があまりないのだが。そのどれもが同じ嗜好の持ち主だった。だからお互い躊躇はなかった。ヤるときはヤるし嫌だったらそれまで。ゾロは本気で好きな相手と付き合うのはサンジが初めてなのだ。それまでの相手は別れることに大した未練もなかった。でも今度は違う。縋るか、逃がさないであろう自分がわかる。
キスは平気だった。サンジだって、乗った。それどころか自分からしたはずだ。
いまさら拒絶されたら、ちょっとダメージが大きすぎる。
「…触ったら、ダメだったか」
サンジは首だけ振った。それでも顔が見えないことに不安がよぎる。ゾロはそおっと頬を包んで顔をあげさせた。
「っ、ちげ、見んな」
首を振ってまた顔を隠したサンジの顔は真っ赤だった。そりゃあもう心配になるくらいだった。今のくだりのどこに赤面するポイントがあったのか、ゾロにはまったく謎だ。
それでも杞憂をすぐに忘れて、彼の動揺を観察する余裕くらいはできた。
耳まで赤くして背中を丸めている様は大変可愛らしい。抱きしめるか、からかうかしたい。
「何で照れてんだ?」
「うるせえ、黙ってろ…」
ゾロは黙るかわりに席を立った。彼の真横まで行くとその頭をぐしゃぐしゃと撫でてみる。金髪頭がわしわし揺らされるがサンジは黙っていた。いつもならやめろと怒るくせに。
「かわいいな、お前」
つい口が滑ってしまったがサンジは無反応だった。それに訝しんでまたサンジの顔を引っ張ってみたら今度は抵抗されなかったが、その表情は弱り果てた風で、ゾロはちょっとからかいすぎたことを悔やんだ。
彼がへそを曲げては意味がない。サンジはただでさえ気まぐれだ。
「ンな顔すんな」
「…仕方ねえだろ。テメェが悪い」
「何で俺が」
つい反論するとサンジは小さな声で言った。
「毎日って……喜ばせんなよ」