[不可解]



 敷居を一歩跨いだらいつもと違う匂いがした。
 「何の匂いだ?」
 「ああ、ケーキじゃねェか?昼間作ったからな」
 今日は何かの記念日だっただろうか。クリスマスはとっくに過ぎたし雛祭りにケーキなんて習慣もないだろう。第一それは明日だ。
 「メシは?」
 「食う」
 つい即答したらサンジはさっさとキッチンへ行ってしまった。聞きそびれたまま席についていると器に盛られた食事がでてくる。このスピードはさすがにコックだなと思うところだ。
 湯気をたてているのはどう見てもホワイトシチューだ。ゾロはサンジの料理の手際の良さや味にいつも感心するが、不思議に思うことがひとつあって、それはサンジの傾向である。普通その道のものならば自分の技量を試してみたいと思うものだが、サンジは基本的もしくは定番と言われる料理を作るのが好きだ。カレーだとかオムライスだとかピラフだとか。子供が喜びそうな洋食が多い。店のメニューは小洒落たものもあるがこうやって家で作る時は何故かそんなメニューが頻出する。
 「いただきます」
 「どーぞ」
 そして彼は一品でない場合、一緒に食事はしない。料理と給仕をしなくて済む段階まではプライベートだというのに働いている。ゾロとしては座って食えばいいと思うがサンジが如何に料理好きか知っているので止めることはない。彼はゾロが美味そうに食っていれば労働などどうでもいいほど料理が好きなのだ。
 シチューを食い終わると次は肉。それと赤ワイン。ゾロにはそれの値打ちはわからない。
 でも素晴らしく美味い。それはわかる。
 サンジが席について食べ始めたので今晩は二品らしい。彼にしてはあっさりしたメニューだ。実際ゾロの胃袋は五割くらいしか埋まっていない。
 酒はいつもよりも上等だが。
 「今日は何かあんのか?」
 機嫌の良さそうなサンジは首を傾げながらゾロを見遣る。
 「何で?」
 「ケーキと、メシが少ねえし、酒が美味い」
 うへへへ、と妙な笑い声を出すとサンジはにやにや笑う。
 「驚くなよ?」
 その通りゾロは見慣れぬ洋菓子に驚くことになるのだが、サンジはその後もっと驚くことになる。