[ロビンの事情]
花屋を始めたのはちょっとした道楽のつもりだった。もともと派遣の立場でその能力を生かして世界各地を飛び回る生活をしていたが、それに少しだけ疲れてしまった。二十代後半。主な生活地を日本に置いていたが花も枯らしてしまうくらい留まることが少なかった。だから、ちょっとガーデニングでもしたくなっただけだったのだ。
それがいつしか花屋になっていて、ロビンはそこでオーナー兼店長として経営と接客と業務をこなす生活に路線変更していた。
本来ならば人ができないこともこなせる能力があるスーパーウーマンなのだが、なんとなくそんな気ままな暮らしをしているうちに三十代になってしまった。それでもロビンはまるで焦ることがない。昔の仕事相手などは今でもそれを惜しんでくれているが昔に戻るつもりはあまり無かった。
しかしそんな彼女は現在考えていることがある。
「あんまり店には居られなくなるってことかい?」
「そうかもしれないわ」
以前、雑誌の創刊にあたりマーケティング調査や企画など全面的なサポートをしたことがあった。そのときのチーフが今は別の雑誌の編集長をしていて、短期間でもよいから手伝ってくれと言われたのは先月の中頃だ。
ちょうど彼が悩んでいたころだったので黙っていたが今は何とかうまくいっているらしいからとロビンは話をした。
「パートさんみたいなものね」
早く言えば短期の派遣である。相当待遇は良いし彼の仕事ぶりは気に入っていたからロビンはその仕事を受けるつもりだ。
「じゃあ店は?」
「誰か雇おうかと思ってるの。うちは儲けを気にするような店でもないから営業時間を減らしてもいいわ」
「そっか、ロビンちゃんに会える日が減っちまうのは残念だけど」
「あら。そのほうが良いんじゃないかしら。彼に会う日が増えるわ」
サンジは照れくさそうに笑う。
「ここに来るのは朝だからアイツは関係ないって」
こんな顔をさせる彼はどんな子なのだろうか。きっとサンジが好きになってしまうほどの男の子なのだろう。ロビンは微笑む。ふわりと揺れる金髪が彼がいま穏やかなのだと黙っていても教えてくれるからだ。
ロビンが花屋に居着いてしまったのはサンジに懐かれたからだ。居心地が良すぎて、彼を好きになって、優しさに触れて温かさをもらったから。ロビンの花は綻んだ。
そしてロビンがまた仕事を始めようと思ったのはサンジを綻ばせた未だ見ぬ恋人のせいだ。ロビンのかわいいおとうとを誑かした男がサンジを幸福に輝かせてくれるのならば自分はその光を眺めているだけでいい。きっとサンジの笑顔は彼が持っていてくれるのだから。サンジの立ち寄る場所はロビンではなく彼の所になる日がくる。それまでにはサンジをおとうとからおとこのこにしようと思っているのだった。
「ふふ、でも誕生日に一緒に居てはくれないんでしょう?」
去年の三月二日、サンジはここでケーキをくれた。でも今年はそんなサプライズは起こらない。
申し訳ないと謝ってしまうサンジにロビンはまた笑った。
春の暖かさ、綻ぶ花