[簡単な提案]



 ゾロは絶句した。
 「ごめん」
 謝られてどうにかなるようなことでもなく、口から出てしまった言葉は戻らない。しかしゾロは責める気にもなれなかった。ナミが自分のことを考えてしただろうことは明白だからだ。
 「…別に、いい。謝んな。俺がグズグズしてたのがいけねぇ」
 「いい返事が戻ってこなくても、サンジくんはゾロを嫌いになったりしないわ」
 ナミがサンジを信頼しているのは知っている。素直じゃないこの女にしては珍しく心底から信じているようだ。そのくせ何で別れたのかと尋ねたことがあったが答えはなかった。少なくともゾロは関係していないらしい。
 でもその信頼がこの事例に通用するのかはわからなかった。いくら人間性のできた奴でも好き嫌いくらいある。
 ゾロはサンジに嫌われるのが怖い。男性同士の恋愛に理解のないであろうサンジの顔が歪むのを見るのが、怖い。
 性癖を差別的に見られるのは慣れているし怖くない。わからない奴は放っておけばいい。それでも、好きな相手では別だ。
 「嫌われなくても同じようには付き合えねえよ」
 「だったら好きにさせればいいのよ」
 「無茶言うな」
 自分が恋愛に臆病なのは知っているが、そこには少なからず過去の経験も関係している。なにせ同性愛者だ。現代社会は彼らに冷たい。だからこそゾロは公言しないまま暮らしている。会社勤めではなく小さなコミュニティで生きているゾロにとっては語らないだけで十分だった。詮索もされないしカミングアウトしたところでゾロ個人を知っているものは色眼鏡で見ることもないので気楽なものなのだ。そのあたり幸せに生きていると言っていい。口に出すことはないが寛容な周囲に感謝している。
 「あんたって何でそうなのかしら。だってサンジくんが言ったんでしょ?あんたに好きって」
 「…酔っぱらいの戯言だ」
 「今は恋愛じゃなくても、これからすればいいじゃない」
 諦めろって諭したのは一体誰だよ。
 ゾロはそう言いかけてやめた。かわりに違うことを言ってみる。
 「どうやって」
 考えるような素振りをしたがナミの言うことはゾロにはわかっている。
 「告白。で、押しまくる」
 それができたら苦労はしない。