[棘]



 ナミの言葉がサンジの心のどこかに突き刺さっている。
 「ロビンちゃんは、気に入ってる人っているかい?友達とか恋人とか、そういう括りは置いておいて、人間的に好きな人っていうのかな…」
 最近この花屋にばかり居るような気がするのは何故だろうか。仕事する以外の休日、どこかへ遊びに行くこともないのでとりあえず暇潰しに寄ってしまうのがいけないのかもしれない、そうわかってはいるのに。優しいロビンはそれを許してくれるからついサンジは甘えてしまう。仕事の邪魔はしたくないからせめて端に座って大人しくしていると自分が子供になった気になる。
 前はナミやゾロと何処かへ行ったりすることもあったが、今年に入ってから彼らとは疎遠だ。特に二月になってからは。もう半分以上過ぎた如月はサンジにとって色濃く残っている。
 なぜ、ナミはあんなことを言ったのだろうか。言葉の真意はどこに?

 「いるわよ」
 付き合ってくれているのか同じようにティータイムを過ごしているロビンはとても優雅に答える。その仕草ひとつひとつが美しい。
 「器用なのに不器用だからいつも心配してるわ。人には気を遣うのに自分のことには無頓着なんだもの」
 「そりゃあ面倒な奴だな」
 「あなたのことよ、コックさん」
 思わず紅茶を吹いた。
 「ここのところ悩み事があるのかしら?迷っているみたい」
 赤い波紋が治まらないうちに追い打ちをかけられてサンジは動揺も今更なくらいばれているのだと悟る。
 「はは………ロビンちゃんには敵わないな…」
 「お友達のことかしら?」
 またもや図星である。
 本当にロビンはサンジのことを気に入っているのだと気付く。いくら洞察の利くロビンとはいえどうでもいい人間のことをそこまで見ていたりはしない。サンジは少し恥ずかしくなった。自分は未だにロビンが何を考えているのかわかりかねるところがあるからだ。なにせこのミステリアスな美女は自分のことは語らない。そして勘付かせることもない。読めない謎の部分があるのがロビンの魅力のひとつだとサンジは思っている。

 「…うん。言ったっけ?最近、前の彼女の友達を紹介してもらって遊んだりしてるって」
 「聞いたわ。かわいいんでしょう?」
 「あーそれ語弊あるなあ、見た目は男の中の男だし。天然なだけで」
 「そのコとうまくいってないの?」
 「いや、前の彼女に言われたんだ。気に入ってるなら向き合え、って」
 向き合うとはどういうことなんだろう。
 サンジはゾロに普通の友人として接しているつもりでいる。サンジの中では男性に対する最上級の親交だ。向き合うというのはもっと踏み込めということなのか、それとも。サンジにはナミの言葉に対する正解がわからなかった。
 答えを見つけようとしているうちに最後にゾロと会った日からもう十日以上経っている。二人で飲んでからあの顔を見ていない。
 「向き合うってどういうことかな…俺はどうしたらいいんだろう」

 彼女が大事だ。見損なわせたくない。別れても一人の存在として認めている。美しく賢い彼女。
 彼とは友人になりたい。できれば自分が思うように、彼に思ってほしい。たまには会って話したいとか、飲みに行きたいだとか。

 サンジはこれまで信頼できる友人関係を築いたことがなかった。周りはいつも大人の仕事仲間で、学生時代も卒業してしまえば切れるような付き合いしかしたことが無い。それを寂しいと思ったりはしなかった。そのぶんこんな風に誰かと一緒にいることを望むのも珍しいことだ。ロビンにはそれを求めているが、彼女も年上の、サンジにとっては自分の知らない目線を持っている大人のひとりなのである。
 でもゾロは同年齢で同性だ。ロビンとはまったく違う。
 「相手のことを真摯に受け止めればいいんじゃないかしら。見えていないところもあるでしょう?それを知ってあげれば違う部分が見えてくる」
 ロビンがふと顔をあげたので自然とサンジはその目を見た。静かな湖面のように揺らがない瞳は一層ロビンを読めなくさせている。
 だからサンジは次の言葉を予想しなかった。
 「コックさんは彼が好き?」

 「――好き?」
 それは初めて聞いた言葉のように聞こえた。