[ポジション]
彼と別れたのには幾つか理由がある。ひとつは高給取りではないこと、ふたつめは女の子なら誰でも好きであること、そして一番の理由はお互いにお互いじゃなくても平気だろうと思ったことだ。現に自分達は別れてもうまく友達としてやっている。
切り出してみれば彼は残念そうに認めてくれた。惜しんでも引き止めないことは何となくわかっていたのだ。思いやりがあって物分りがよくて、でも弱いところを決して見せたがらない――サンジにはそういうところがあった。ナミはそれが彼の美点だと思っているので嫌いになったわけじゃない。ただ友達でも良い関係でいられると思っただけだった。
こうして友達でいたほうがずっといい。
「んん?どうかした?」
サンジの淹れる紅茶は安らぐ美味しさだ。それでいて芳醇は深く、茶葉の品質を生かしきっている。舌で感じる味だけじゃなくカップを両手で包みながらそっと香りを楽しむ。ささやかな充足感と幸福感。たかがお茶でも淹れ方ひとつでどうとでも質は変わってしまうものだ。けれど失敗への不安を思いつきもしない、自分の腕に絶対の自信を持っているのもナミがサンジを気に入っているところのひとつだ。
「これ美味しいなと思って」
「ナミさんにそう言ってもらえるなんて…この上ない幸せでぇっす!」
「……うっせェ、アホ」
ぼそっと呟いた向かいの席の男は面白くない顔を隠しもしない。この男の美点はサンジとは違う意味で正直なところだとナミは思う。自分に正直だ、バカがつくほどに。好きな男が違う女にでれでれしてるのが気に食わないと体全てで示してくる。だからその真意はバレバレで、嫉妬していると誰でもわかってしまう。
それでもゾロは気を遣っていたのだと告白した。ナミが彼氏として紹介したサンジを初めて見たときから、彼と彼女がもう別れてしまったと伝えたときまで。彼は自己の倫理観に則って友人の恋人を奪うのは間違っていると考えた。だから二人が付き合っている間はあの正直な彼がその正直な恋愛感情をひた隠していたのだ。
なんて微笑ましいのだろうか。二人を引き合わせた責任としてナミは二人のことを見守っていようと思っている。もしもどちらかにとってうまくない事態になっても私だけはどちらの友達でもいよう――そう心に決めている。
だからこそこうしてゾロを誘ってサンジの淹れた紅茶を飲んでいる。温かで幸せな時間だと率直に感じた。