[夢の残り香]
自分がそういう趣向だと知ってからは期待するのは無駄だと思うようになった。だったら行動して少しでも近づくために努力するほうが前向きで、はるかに現実的だ。それは色恋も他の生活も同じである。
だからゾロは練習を惜しまないし、彼に近づくための投資を惜しまない。時間も手間もかけてやろうじゃないか。そう思っていた。
でもそれもあの日までだった。
あの朝からサンジとは一度も関わっていない。
どんな顔をしていいのかわからない。それには多少の罪悪感もあるだろう。ゾロはサンジに言えないようなことをした自覚がある。もし詰問されたら。想像だけで過ちを消しに行きたい気になるが都合良くタイムスリップできるわけもなく、消すには惜しい記憶だと卑しい気持ちにもなるのだった。
口付け。触れた肌。吐息。髪が刺さり撫でる。におい。背中を這う指先。熱い。濡れた舌。腰を撫でられる感触。
それらはゾロの熱を掻き立てるには十分過ぎた。
ノンケに惚れてもバカを見るだけだといつか一夜だけの男が言っていた。それは正しい。こっちがいくら熱を上げようとも相手はあっさりと女へ帰る。遊び半分で茶化しているだけ、一時だけの本気。そんなものに振り回されても傷つくだけなのに。
何も覚えていないサンジに、自分勝手に腹を立てた。気遣いに勝手に傷ついた。悲しいよりも空しくなった。自分の想いは伝わらず、また伝えることをひどく恐れる自分がいる。
本気の恋がこれほど消耗するものだとゾロは初めて知った。だからこれまでのものは肉体関係に情がついて回った、それだけなのだった。
そんな過去を消し去りたい。純真なふりでもすればサンジは堕ちてくれないだろうか。画策するもゾロはそんな手練手管を持ち合わせていない。
あの朝。だったら完全にサンジと既成事実を作ればよかった。そちらの方が幾許かでも自分に勝機があったのではないか。
今更後悔しても、遅い。