[夢のあと]
「キス…って」
絶句したナミを目の前にしながら、ココアを飲んだ。無意識に甘いものを選択するほど疲れていたのかと考えたが、単なる混乱によるものだと思うことにしてゾロは自分の動揺を一時のものだと思い込もうとしてみる。
そんなもの、無駄に決まっているが。
「そのままだ」
「なんで?まさか言っちゃったの!?」
「いいや。言ってない」
そうだ。何も言っていない。昨晩――といっても今朝のことだ。ゾロは何も言わなかった。サンジ本人にキスをした事実も好きだとも自分が同性愛者だとも。
昨晩のすべてを知っているのはゾロだけだ。隠蔽も公表もできる。腹にしまっておくことも楯にすることもできるのだ。
「夜中電話があって、酒飲もうって言われてアイツんちに行った」
黙って聞くことにしたのかナミはもう何も言わずジュースの側面を手持ち無沙汰に触っている。指が冷たそうだと思って、今朝のことを思い出した。水道水の冷たさが、夜の夢を晴らそうとしてくれたこと。
「酔っぱらっちまったアイツが俺に」
甘美で残酷な夢。優しいサンジの普段見せない激しさも、自分がどれだけ彼で満たされるかも、ほんのりとしたぬくもりと全てを壊したくなる熱が一緒くたになってしまう感覚も、ゾロが自己嫌悪する浅ましい欲も。すべて理解してしまう、温かくて暗い夢だった。
「好きだ、って言ったんだ。俺のことを」
醒めてしまえば角砂糖よりも儚く消えてしまう甘さだった。
こうして口に残るココアとはまるで違うのだ。
「だから」
触れた唇は乾いていてあたたかくて酒くさかった。それでもサンジに触れるだけでゾロは心臓が壊れそうなくらいうるさく波打つのを感じていた。あの金髪は思っていたよりもしっかりとコシがあって、細身のくせにちゃんと厚みがあるサンジそのもののように思う。きれいなのに強くて眩しい、魅力的な煌めき。
その反面、緊張しすぎて表情だとか自分の振る舞いはあまり覚えていない。
自分も酔っていたのだろうか。酒に酔ったことがないくせにゾロはそんな言い訳をしてみた。
「勘違いしちまった。…好きの意味なんて、ひとつじゃねえのにな」
甘さに吐き気がする。どろどろと後悔が襲う。
一時の夢に縋ってしまう自分が許せなかった。