[朝日のなかで]



 遮光カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。
 「あ、起きた」
 ぼーっと見慣れぬ天井を見ていたら声がする。薄暗い部屋の中で燃える火がひとつ。
 「おはよ。メシまだ作ってねェけど、何がいい?」
 寝癖のついた金髪頭が首を傾げた。
 「目ェ開けたまま寝れんのか?テメーは」
 勝手に喋っているそれに手を伸ばす。首を抱えると簡単に収まった。ゾロはもう一度布団に丸まり直そうと思って体勢を整えて、温かい抱き枕に頬擦りをした。
 「おい、寝んな!」
 ばこんと頭を叩かれて、ふとその抱き枕を見た。
 「…さんじ」
 「ん?」
 「おはよう…」
 「おう。おはよう」
 右手がその口に煙草を差し込んだ。再び口から離れてその唇からは煙が出ていく。嗅ぎ慣れた香りだ。ゾロはその香りがちっとも好きじゃないのだがこの時はサンジの香りだと思って、目の前にサンジがいるのだと認識できた。
 「さんじ、たばこ吸うな」
 煙が目にしみる。辛うじて開いている目蓋の隙間ですら眼球が痛がって涙がでた。
 「嫌い?」
 頷く。
 「許してくんねェ?」
 仰向けに寝ているサンジに半ば乗り上げるようにしてゾロはその胸に顔を寄せる。
 「さんじが好きだから別にいい」
 目蓋がちゃんと開かなくて仕方なく上体を起こして右手で目を擦った。手の甲でごしごしやっているうちに幾分かよくなったが眠いのは変わらなかった。
 やっと見えた視界には煙草をくわえたままサンジが笑っていた。
 「お前ほんとかわいーこと言うよなあ」
 「何が?」
 「俺のことそんなに好き?」
 また頷く。
 眠気のままにまた体がベッドに戻ってしまう。サンジの肩口に頭を落とすとゾロは寝心地を確かめてみる。ちなみに寝ぼけているゾロは状況をよく理解していないので、もちろんサンジにかかる加重などお構い無しである。
 「俺、直球弱いんだよなー」
 見上げたサンジの口元が綻んでいてゾロはやっぱり好きだと思う。いつもこうやって、新しい目でゾロは発見をする。昨日と今日では好きの度合いが違うのだ。どんどん増えていってゾロの中にはサンジが好きな気持ちが溜まっていく。溢れて零れそうなそれは口にだすとちょっとだけ減る。だからゾロは好きだと彼に伝えると重く喉に詰まっていたものが出ていったような心地よさを感じている。
 彼が好きだと、いつだって思っている。
 初めて逢った時も、声を聞いた時も、料理を食べた時も。笑顔を向けられて、じゃれるように肩に触れられて、名前を呼ばれて。彼は隣にいることを許してくれた。好きだと言われて、抱きしめて、キスをした。
 いつだってゾロは彼の好ましいところを新しく発見するのだ。
 あんなに好いキスをゾロは初めて知った。

 「さんじ」
 「ん?」
 「たばこ吸うな、あっち持ってろ」
 右手を見遣れば視線に気付いたサンジはそのまま煙草を右手に持ちかえる。
 「そこまで嫌いなら前から言えばいいのに」
 「違う、だから別にそれはよくて」
 煙草は嫌いだ。においが鼻につく。でもサンジが煙草を吸うのはかっこいいから嫌いじゃない。あの臭いは嫌いだけどサンジのにおいだ。煙草は彼を構成する因子のひとつで。サンジが好きだからサンジが煙草を吸っているのは問題ない。
 そう説明するのが最早面倒くさい。
 ゾロは筆舌を尽くすことが苦手だ。寝起きの今は思考すらも面倒なのだ。
 「ああもういい、とにかく今は持ってろ」
 ベッドに散らばる金糸を押さえつけてしまわぬよう、その頭の横に手をつく。そうしてゆっくりとキスをした。
 ただくっつけるだけの児戯のような口付けでもゾロには唯一特別な口付け。
 「やっぱお前とすんのはいいな」
 最高に好い。
 言って満足してしまいゾロはまた睡魔と格闘を始める。