[世界が変わる]
口と口をくっつけるだけでは世界の理は変わらないが、サンジの見えている世界はこのとき確実に変化した。ゾロの唇は女の子のそれと大した違いはないし、自分の心持ちもただ愛しいからそうするだけだ。
しかし感情の中にエゴや破壊衝動が混じっていることをサンジは自覚する。
女の子のようにただ美しいものを守ってやりたいのとは違う。
色々なものを奪ってから自分の何かを与えてやりたい。
「…何で…」
放心気味のゾロにもう一度口づける。ちゅ、と軽やかな音がした。
「したかったから。ダメだったか?」
「だ、だめじゃねえけど」
「今日泊まるの?」
「はっ?え、あ…お前がいい、なら」
この困惑する男が自分の虜だと思うと、優越にも似た甘さが走る。サンジはつい悪戯に笑った。
「ベッドが一緒でもいいならどうぞ」
正直言って触る以上はまだ未知数だ。自分が男相手に機能するのかまったくわからない。想像ができないのだ。だけど不思議とゾロと触れ合うことに気持ち悪さはなく、むしろ優しい気持ちになれる。その温かい感情がサンジにはとても心地よいので同じベッドで眠ることは歓迎できるはずだ。
「いいのか?」
「寝るのはな。ヤるのはナシ。まだできる自信ねェから」
「そういうこと聞いてんじゃねえ」
「気持ち悪ィと思ってたらキスできねーよ、心配すんな」
笑ってもう一度唇をつける。右手で芝生をぐちゃぐちゃにしてやって左手で肩甲骨のあいだを撫でた。ピアスが軽やかな音をたてる。
ゾロの手がそろりと後頭部に添えられたので目を閉じてやると唇に吐息があたる。さんじ、と言った。だから応えるようにゾロと呼んだ。半開きのまま合わさったので口づけは勝手に深くなる。唾液の混ざる音がする。興奮するより浮遊感があってトリップしている気分だ。だんだん興が乗ってきたのか最初のおそるおそるした感じから大胆さを持ってゾロの舌が口腔を荒らしていく。
息継ぎをする合間に口端が濡れているのがわかる。はあはあ息をして苦しさを訴えかけるようにゾロのシャツを掴んで後ろに引っ張った。
「はっ、は、ばか、しつけェよ」
「足りねえ」
「…かわいいこと言ってんじゃねェ」
こんな必死な犬みたいにがっつかれちゃつい甘い餌を与えてやりたくなっちまう。
サンジは腹を空かした輩に弱い。老若男女だれだって飢えてる奴には食わせてやりたい、コックの性だ。その餌が自分であろうと可愛い大型犬にシッポ振って待たれてしまえば文句を言ってもくれてやってしまうのだ。
そしてそのうち情が移る。
わかってはいるがサンジは自分の性に逆らえない。