[夜明け前の誘惑]



 午前四時、もう朝が近い。ゾロは全く酔っていないがサンジはそうでもなかった。若干顔が赤い。机の上には空になった瓶が四本、缶が六本。半分以上はゾロが飲んだがサンジも酒が好きらしい。とはいえゾロのようなザルではないのでちゃんとアルコールが体内にまわっているようだ。
 二人はどうでもいい話を肴に酒盛りをしていた。これは豚肉だとか、深夜のコンビニの来客事情だとか、バラティエの従業員室は汚いだとか、それを言うなら道場の更衣室のほうが汚くて臭いだとか。本当にどうでもいい話ばかりである。お互いそんな話をしながら、お互い本体のことには突っ込まないように気を遣っていた一時間だった。
 それがサンジがほろ酔いになってきたせいで状況が変わってきた。

 「ゾロ」

 こうして名前を呼んでは質問を繰り返すサンジはゾロを知らないことを、本当に気にしていたらしい。
 好きな食い物や趣味に始まり、なぜ剣道を始めたのかにまで質問は及び、徐々にゾロも困るような問いも増えてくる。
 「ナミさんとは付き合ってねェの」
 「…あいつは、そういうんじゃねえ。気が合うだけだ」
 眼中にないとは言えない。きっとサンジは激昂するだろうし何故だと聞かれるだろう。
 「じゃあ彼女は?いるんだろホントは」
 「いねえっつってんだろ…」
 嘘を吐くのは簡単だ。サンジがどんなに聡くても酔っていれば判断力も鈍る、きっと嘘はバレない。でもゾロは惚れている相手に自分を偽ったりしたくない。それは相手に、というより自分の気持ちに失礼な気がした。
 ソファの上に座っているサンジから少し離れた床にゾロは座っている。ソファを背もたれにしているのでサンジのほうは向いていない。顔を見せれば動揺がでてしまいそうで憚られた。
 だが後から言えばそれが仇となったのだろう。一時も逃げてはいけなかったのだ。
 「じゃあ好みは?紹介くらいしてやるぜ〜」
 余計なお世話だ、だったらお前を紹介してくれ。それが一番嬉しいぜ。
 ゾロはそう言いそうになるのを無視することで誤魔化した。
 だから代わりの言葉をつくった。
 「お前こそ、ナミの次はいねェのかよ。女なら何でも好いってわけでもねえだろ?」
 「そりゃ美人にきまってる」
 視界の隅からサンジの腕が伸びて酒瓶を掴んだ。ゾロが買った辛口の日本酒をグラスについであおるので止めようかとも思ったが、会話を止めたくなかった。
 「もっと具体的に言えよ」
 「うーん…?」
 背中越しに見るサンジは首を傾げて思案中のようだ。首筋に流れる金髪が滑らかにこぼれおちる様にしばし見蕩れる。
 「強いコがいいなあ」
 ゾロは今度こそ振り返った。





詰問、誘惑、希望、…間違い