[偽りの自分]
寝起きの悪いゾロが珍しく振動音で目が覚めた。携帯電話がやかましく鳴っているのだと理解して手を伸ばすとディスプレイはナミだ。時刻は朝十一時半。
「なんだ」
『お昼食べた?』
「付き合えねェぞ、昼から稽古だ」
眠くて欠伸をするとナミが呆れて言った。
『バイトだったんでしょ?稽古の日は夜勤やめればいいのに』
「ああ、今のシフト終わったらそうする」
今度はサンジと生活時間帯を合わせようとゾロは考えている。彼が仕事をしている時間に仕事をすれば空きが重なる。我ながら情けない行動原理だとは思うが形振りをかまってもサンジは手に入らないのだから、だったらどんな手段を使っても奪い取れるようにすべきである。ゾロにとってバイトや休日は大事なものではないのだ。今や大事なファクターは剣道とサンジだけになっている。
『サンジくんコンビニ来た?』
「ああ。携帯登録して帰った」
『やっぱ脈あるかもね』
「どんな根拠だよ、ただの友達だろ?そりゃ脈って言わねえよ」
『言うわよ。サンジくんに好み聞いてみなさいよ。男じゃなきゃアンタいけるわ』
「…はあ?」
疑問符を浮かべながら通話は終わり、ゾロは二度寝して稽古に遅刻しそうになった。
短い眠りの中ゾロは夢を見た。女の自分がサンジに口説かれる夢だ。確かにゾロは男しか好きになれないが女になりたいと思ったことは一度もない。だからそんな自分は自分じゃないと強く思った。女だったらサンジは対象に入れるだろうが、それで成就してもそれはゾロではない。腹の立つ夢だった。