[電話の向こう側]



 電話が鳴った。表示には元彼氏の名前。
 「もしもし?」
 『オレンジのピアスってナミさんの?うちにあったんだけど』
 彼とは一昨日会ったばかりだ。美味しいランチがどうしても食べたかったのでわざわざ彼の休暇に家を訪れた。我ながら随分なわがままだと思ったけれどそれを許してしまう彼がいけない。これをゾロが聞いたら冗談じゃない、自分勝手なことを言うな、と憤慨することだろう。なにしろゾロは絶対的にサンジの味方なのだから。
 「どこにあったの?この前なくしちゃったのよ」
 耳に触れながら答えると電話の向こう側が笑う。
 『ソファの下。ネクタイ拾ったら見つけたんだ』
 「うーん、じゃあゾロと紅茶飲みに行った日かもね。あのくらいからどっかいっちゃったから」
 オレンジ色はナミの好きな色だ。服やアクセサリーも必然的に多く持っているが、そのビアスはその中のひとつで気に入っていた。金の台に石を嵌め込んだだけのシンプルな飾り。なくなって残念に思っていたので突然舞い込んだ嬉しい知らせだ。
 『ああ、あの日…ゾロと来たことあったね』
 サンジは何故か歯切れ悪そうに言った。その違和感に首をひねりながらナミは考える。
 もしかしてゾロと何かあったのだろうか。言葉の濁りからは良さそうな雲行きには見えなくてナミは少し息を詰めた。
 『よければ持っていくけど?』
 だが予想に反してサンジは当たり前に話を元に戻した。
 「ならお昼にそっち行くわ」

 直接様子を見たほうが簡単だ。サンジの思考は読みにくいがプラスかマイナスかぐらいは読めるだろう。なんていったってしばらく付き合った仲だ。
 ゾロには悪いが一度深い関係にあったというのは何となくでわかることもある。
 だからサンジの歯切れの悪さがゾロに起因しているのも、何となくナミにはわかってしまった。