3:死に至る病



  恋は湯治でも名医でも治せないのだという。ならば不治の病なのかもしれない。
 これは俺を死に至らしめるのか、と胸の動悸にそう思わざるをえない。




 あれから五日。やっと今週が終わろうとしている。
 よく思えば俺もよく月曜日に決行しようなんて思ったものだ。玉砕したことを考えれば居辛いことは間違いない。校内で会うのも嫌だし噂になんてなろうものなら耳をもぎたい。
 けれど現実は予想よりもずっと異常だ。
 「なー、明日は部活?」
 「土曜はねェ」
 「じゃあお前んち行ったらダメ?」
 思わず隣を歩くサンジを睨みつけた。わけではないが、そう見えたらしい。睨むなと怒られた。
 「嫌ならいい」
 「あ、いや、そうじゃなくて」
 「なら決まりなー」
 金曜の帰り道、そう言ってサンジは勝手に別れてしまった。今日まで俺の部活のない日は一緒に帰って、そうでない日でもメールが送られてくる。
 【明日って体育ある?合同だったらいいな、勝負できるじゃん】とか。
 【剣道部ってシャワー使えんの?】とか。
 他愛もない。
 それで俺は何分も考えた挙げ句、いい返答も思いつかないまま、
 【こっちは四時限目に体育館】とか、
 【使えるけど使わない奴のほうが多い】とか。
 どうでもいいことばかり。


 それでも十分だと思うあたり、終わってる。
 病魔に頭をやられている気がする。






 ゾロの家に行くことになった。というより俺が勝手にそう決めた。ただの興味だ。だってゾロってちょっと変だから。
 俺のことが好きなくせに全然そんな素振りがないのだ。一緒に居ても素っ気ないし男だからかベタベタすることもない。いつでも俺が一方的に構っているような気がする。それなのに、もしや好きじゃないのか?と疑問や不安を感じることもないくらい、その視線が語っている。
 俺のことを好き、って。
 あのじっと見つめてくる瞳が滔々と言うのだからタチが悪い。


 健康な高校生男子なのだから“そういう”衝動も起きそうなもんなのに、ゾロときたら手も握らない。それがいいとか悪いとかじゃなくて、ちょっと変。
 もしかして童貞なのだろうか。と思っても自分の立場が悪くなりそうで訊けない。
 そうです、と言われたら狙われるのは自分である。それが嫌とかオッケーとかじゃなくて、心の準備くらい欲しい。
 何にせよ必要なのは積み重ねだ。そうすればもう少し解りそうなもんだろう。


 だから、付き合っていると言ってもお友達付き合いくらい。
 俺は一応覚悟して付き合っているつもりだ。なのにゾロときたら平穏極まりないスタンス、あの仏頂面よろしく何を考えているのかわからない。
 俺だって、多少は物思うこと、あるのだから。
 相手は男だ、本来なら御免被る対象だ。それなのに付き合うってのはゾロのことを気に入っているからに他ならない。
 あのとき、真剣に提案したゾロの眼がきれいだと思ってしまった。
 そもそも凛としていてかっこいいと思ったのだ。顔も造りも立ち振る舞いも。だから印象は良かった。
 俺は美味そうなもんならとりあえず食ってみる主義だ。

 まあゾロは毒じゃないだろうと思う。

 実を言うと、俺は恋愛に本気になったことがない。好きだと言われれば付き合う。そりゃあ相手が嫌いだったり全く何も思わなかったらイエスと返事はしないけれど。興味だけでも付き合ってみる。そういう不誠実を俺は卑怯とは思わないからだ。とりあえずから始まる恋だってあるんじゃないかと、俺は思うのだ。
 結果はあまりよくない。大体が本気になれないから振られて終わる。流石に懲り始めてここのところ女の子と付き合っていなかったのだが、思わぬ不意打ちをくらった。





書いた日081227ぐらい