4:心をください





 ゾロの家は六階建てマンションの四階の角部屋で、貧乏ではないことが知れた。土曜日の昼過ぎ、さすがに親に会うのは何だか変な気がして緊張していたのだが、道すがらゾロが言うには親は不在らしい。仕事で家を空けることが多いのだという。
 「何か飲むだろ?」
 「ん?お前でもそういう気ィ利くんだな」
 ゾロがガサツというか、繊細でないのはここ五日でさすがに気付いた。
 出されたコップはもう汗をかいていて受け取ると手が濡れた。入ったばかりのリビングから出ていくゾロに着いていくと、玄関に一番近いドアを開ける。
 ゾロの部屋のようだ。
 ベッドにローテーブル、棚、窓。
 「適当に座れよ」
 物が少ないのか、片付いて見える。トロフィーがごろごろと片隅にまとめられている一角は少々異様だが。いわば栄光の証のはずなのに墓場のようにも見えた。ゾロらしい。
 コップを卓上に置くと水滴が溜まる。俺は冷たく濡れた手を少し持て余し、悪戯のつもりで、ゾロの首に当てた。
 「うぁっ!?」
 「うはは、びびった?」
 「……」
 睨みつけてくるもんだから笑える。ゾロはからかうと面白い。






 ケタケタと笑ったと思ったらベッドに深く腰掛けて、サンジは手招きをする。
 「?」
 「座れっつったのテメーじゃねェか」
 ぐい、と手を引っ張られて隣に沈み込む。サンジとの距離がいつになく近くて少し心臓が沸いた。
 俺たちは付き合い始めて六日目である。一応。
 その間、毎日顔を合わせているが喋っているだけで何もそれらしいことはしていない。せずとも心臓が壊れそうなくらいうるさくてサンジの顔をみるだけで体のどこかが軋んでしまう。
 俺はいっぱいいっぱいの状態なのだ。それなのにサンジは当たり前のように俺に触れる。無意識なのか遠慮もしない。
 今だって、隣に座るその顔を見ることもできない。
 見たら衝動に流されてしまいそうだ。
 「ゾロ、お前さぁー…」
 そっと右手に覆い被さるものがある。
 「親がいなくて彼女と家にふたりきり、なんて状況でじっとしてんなよ」
 そのまま右手を引かれて、嫌でもサンジのほうを向くことになる。顔をあげると不思議そうに首を傾げた"彼女”がいた。
 「確かにおれァ彼女じゃねェし、お前はホモじゃねェのかもしんねーけど…触りたいとか思わねえのか?」
 掴まれた右手。サンジはそれを自分の頬に置く。さらりとした肌の感触が指の腹に伝わる。
 もしかして俺のやかましい脈拍もその掴まれた右手を通して伝わっているのかもしれない。
 「おれの自意識過剰か?」
 サンジが喋る、それが声や視覚からじゃなく、手からも解る。顎が動くのが触覚でわかる。
 「恋人としてのお付き合いにイエスって答えたんだぜ、おれは。だから覚悟っつうか…受け入れようとは思ってるんだ。そういうおれの乙女心を無碍にすんなよ」
 俺は確かにサンジに惚れていて、こうして付き合えるのを信じられないながらも嬉しく感じている。でも恋人になる、と契約のような義務的な気持ちで付き合ってほしいわけじゃないのだ。
 サンジも同じ気持ちならいいのに。
 そう、この六日間で何度も思った。
 けれど俺は勘違いしていた。何でサンジがお情けで付き合ってくれたと思ったのだろう。
 彼はこんなにも真摯に、心をくれようとしているというのに。





書いた日081228ぐらい 短い