1:恋人契約
突然だ。
「お前に話がある」
そう呼びつけられてついていった。ガタイのよさそうな同学年――胸につけられたクラスバッジがそれを教える。俺の隣の隣の、D組だ。青色は二年生の意味
している――だったから、またケンカでも売られるのかと内心ワクワクというかソワソワしつつも、反面冷めた気持ちを持って、そいつの広い背中を眺めた。
普通教室の棟とその他の教室のある棟をつなぐ渡り廊下。一階には下駄箱と普段は使わない視聴覚室があるだけだから、十五分の休み時間に人通りはなかった。
「――で、何。文句があるなら受けて立つけど」
誰もいないなら煙草を吸いたいな、なんて思った。
振り向いたソイツはこっちをじっと睨みつけてくる。
あと十分で三時間目が始まっちまう。ロビンちゃんの世界史だ。
「てめえと付き合いたい」
「…は?」
一瞬、言葉が抜け落ちた。目の前には至って真面目な顔つきのまま、さっきの台詞が空耳だと思うくらい、ソイツは普通だった。
「悪ィ、…もう一回」
「てめえと、付き合いたい」
二回も言われれば流石に理解する。どうやら俺は男に告白されているらしい。
「罰ゲーム?」
「違ェ」
これもばっさり。なら、
「ホモ?」
傷つけるかもしれない、と思わなかったわけではない。だが口をついて出てしまったのだ。純粋な疑問が。
人生で初めてのことに直面したら、人間誰だって考える余裕がなくなると思う。
「それも違ェ……と、思う」
「思う?」
「“そう”と思ったのはお前が初めてだから、」
よくわからねェ。
困ったように呟く、ちょっと俯いたその顔が思ったよりもずっと端正なつくりをしていて、へえ、と思う。
これで本当にホモなら引く手数多なのかもしれない。ホモじゃなかったら間違いなく、そうだ。
「…言っとくけど、おれは違うぜ」
「知ってる。お前が女好きなのは」
「じゃあわかるだろ。無理だ」
ひら、と手を振った。けれどじっと見てくるのは変わらない。
「無理なのはわかってる…だから“付き合いたい”って言ったんだ」
思わず首を傾げた。
「希望的な話か?」
頷いて、またじっと見る。どうにも眼力のある奴だ。
濃い色の瞳が陽に当たってきらりとした。
緑?
「お前が少しでもその気になれば、でいい。試しで構わない。付き合ってみてくれないか」
俺はこんな告白は人生で初めてだった。
書いた日081226 お題ひとつめ