3:境目はいつも曖昧



 俺はサンジを抱くと時折、一瞬だけ、変な気持ちになる。
 その変というのは違和感だ。地に足をつけているのか不安になるような、疑惑だ。
 元々サンジは女好きだった。それが、俺が好きになって付き合い始めた関係だが、今ではサンジが好きと言葉にすることが多い。俺は滅多に口を使うことがない。それに対してサンジは感情の振れ幅が大きいから嬉しければ笑い悲しければ沈む。
 俺が好きだとささやかな態度ですら示すことができるのだった。
 たとえば口付けひとつにもそれはわかるし、事の最中に呼ぶ名前も特別なのだ。
 「ゾロ」
 舌足らずに。情熱的に。吐き出すように。
 時に様々な味付けで俺の耳を打つ。





 冷たい体をこすりあわせるようにして抱き合う。一緒に融け合おうとするかのように隙間を埋める。
 エレベーターは切り取られた箱だ。狭い密室ならば誰も見ていないから、と軽い悪戯をしてしまう。
 「なんか久しぶりな気がする」
 前に会ったのは元旦だったか。冷たくなった髪を撫でるといつもよりも重い手触りがした。以前は毎日のように触れていたものだ。これからはもっと遠くなってしまう、かもしれない。
 「もうすぐ試験だな」
 サンジにとっては嬉しいことなのかもしれないが、俺にとっては考えるだに気が重かった。
 こいつはいつもお互い時間がないことを嘆いている。
 会いたいのに会えない。それがつらいらしい。
 俺はそれよりも遠くなることが辛かった。



 部屋に辿り着くとサンジはばさりとコートを脱ぎ捨てた。ストリップをするがごとく次々と衣服を落としていき、さっさとズボンだけになってしまう。部屋着にコートを羽織っただけの俺とは違って裸になるには何枚もの皮を剥がさなければならないのだ。俺はそれを眺めつつベッドに座る。
 色気も何もあったもんじゃない。
 そうは思うが何せ午前二時の逢瀬だ。朝までの刻限なら仕方ない。
 サンジの朝は人より早い。夜明け前に起きて仕入れについていくこともしばしば。睡眠を貪ることが趣味とも言える俺には一時間やそこらの仮眠で一日を乗り切ってしまえるサンジの構造が甚だ疑問だ。
 曰く、俺で充電しているらしいが、そんなうまくいくわけないだろうに。まったく疑問である。
 「最近学校どうよ?」
 「感じ悪ィ」
 塾の講習に出ていて来ない奴がほとんどだが俺と同じく学校で勉強している少数派もいる。それが切羽詰まっているのを押し出すように殺気立っていて居心地が悪い。というか元々たいして良くもない。
 「俺もたまには行こうかな」
 「仕事休むのか?」
 「ああ…、休まねェけど」
 つまり来ないということだ。
 サンジにとっては実りない時間だろう。結局こいつは仕事を取る。
 のし、と乗り上がってきたサンジを抱えてベッドに転がると自然と押し潰されるかたちになる。胸に顔を押し付けてみても埋められるような肉はそこにはない。俺はサンジのにおいを目一杯吸い込んでみる。
 「休むんなら俺とこうしてろ」
 滑らかな肌を撫でれば温かくなった手は容易に温度を同じにしてしまう。



 鋭敏になった先端を舐められて胸を仰け反らせた。赤く硬く変質したそこは大した用途もないくせにこういうときだけ反応を顕著にする。
 「しつこい…」
 「たまにはいいだろ?たまになんだから」
 俺はサンジに抱かれるとぐちゃぐちゃに融けてしまう気がする。繋がっているところから熱源が拡がって自分の芯が液体になるような錯覚を起こす。
 出入りする感触は大分慣れた。でも快感にはいつまで経っても慣れない。
 そこで感じるのは理解できるのに俺の体が支配されるのが居たたまれなくて、いつも早く終わってほしいと思う。
 簡単に言えば恥ずかしい。
 「さっさとイけ」
 俺が思わず漏らすとサンジはにやりと笑った。
 「ひでェなあ、良くねえのか?」
 「ぅああっ!」
 いきなり大きく掻き混ぜられて変なところが痺れた。足が痙攣したようにもたつきサンジの肩を蹴る。勝手にでた涙が揺らされるたびに零れて落ちた。
 「あっ、ぁ…あ!やめ…サンジっ」
 押し込まれて抜かれる、それに合わせて声まで零れてしまう。
 俺の冷静な部分が俺自身を眺めて、なんてだらしない声を出しているんだ、と思った。





書いた日0901不明  SZ