act.2




 ぴりぴりぴり。ぴりぴりぴり。
 やかましい電子音の源を開く。手の平に収まる画面の中で手紙のマークが点灯していた。
 <Sanji----12,2/PM0524/sex,female/age,……>
 情報のみが羅列されたメールに目を通す。着信音くらいじゃ目を覚まさない相方はまだ夢の中だ。
 「寝てんだったらもう行くか」
 床に足を着くとゾロのブーツを踏んだ。あまり気にする様子もなく身支度を始める。
 元々の性格のせいか生活が変わっても几帳面なところは変わらないサンジは、安定しないリズムだろうと自分が守れるペースで生活をする。顔を洗って歯を磨いて髪を整える。それとは全く正反対に、ゾロはそのとき置かれた状況で自分のペースを確保する。
 だからこそこうやって仕事以外のときは好きなだけ寝ているのだろう。解っているからサンジは起こさない。
 「うっし」
 革靴を履いた。スーツを着るのはそれらしく見えるからだ。
 この現世で普通に生活している人間に見える。
 鍵を持ってドアを開けてサンジは出て行った。同時にゾロの体は音も立てずに消えた。





 「おれ?サンジっていうんだ」
 目の前の女の子は頬を染めてサンジを見つめる。昼過ぎの繁華街、カフェで可愛い子に適当に声をかけた。ゾロなら鼻で笑いそうな美辞麗句で以て引っ掛ける。サンジをよく知る相手なら間違いなくあしらう台詞でも初対面の一般人なら聞く耳くらいは持ってくれる。
 楽すぎて、ちょっとつまんねーな。
 そんな失礼な感想すら持ってしまうほどにナンパの成功率は高い。
 ふ、と気を緩めたら頭の片隅が歪んだように響くものがある。
 『またか』
 そう、まただ。わかってんなら邪魔すんな。
 テーブルの向かいには女の子。そうでなくても人だらけだ、声に答えては不自然すぎる。
 「アミちゃん、今日は一日ヒマなの?」
 『おう』
 「うん」
 声が重なった。
 オメーには訊いてねェよ、っつーかヒマなのは知ってんだよ。内心毒づいたがゾロには伝わっていないだろう。
 『お前もか』
 「俺もヒマなんだ。よかったら一緒に居させてくれないかな?」
 ゾロと噛み合っているようで噛み合っていないことにサンジは苛立った。もちろん表には微塵も出さず微笑んだまま。
 頷く彼女のことが遠くなる。サンジの頭の中はゾロの声に集中していく。
 「じゃあどこいく?」
 『代わる必要ねェんだよな』
 悩んでるようなフリをする女の横顔を見ながら軽く頷く。
 「サンジさんの行きたいところでいいよ」
 やっぱり楽すぎる。彼女たちはこんなに簡単に他人を受け入れてどうして不安にならないのだろう。もしかして隣に座る俺に命を消されるかもしれないのに。
 ゾロの問いは確認でしかない。話が噛み合う必要はないのだ。ただこの一方通行なやりとりが苦しいのはサンジの勝手な想いだろう。
 サンジは微笑みを崩さないまま彼女の手を取った。
 「じゃあホテルがいいな。キミと1ミリでも近くに居たいから」





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